「時間がかかってしまったね」


「ふふ、そうですね。でもレイラに会わせることができてよかったです」



自分の腕の中でふみゃふみゃと声を上げる我が子を見つめるローズは前よりもずっと芯のある美しさを持つようになった。


母上曰く「子を産むと守られる側から守る側に立ったのだと自覚できるのよ。出産時にオロオロしている夫を見れば尚更ね」ということらしい。


確かにあの時はこちらも心配でたまらなかった。普段おっとりしているローズがあんなに苦しんで声を上げての事態だったのだから狼狽えるなという方が無理だろう。この子以外にも子どもは欲しいが…毎回あぁだと思うと二の足を踏んでしまいそうだ。


2人でここに来ることが遅れてしまったことのお詫びとローズと結婚したこと、そしてレイラのことを伝える。


2人が好きだったという薔薇の花束も備えてしばらくは親子水入らずで語る時間も必要だろうとレイラを受け取ってから離れた。


ふと、なにかを感じて振り返ればローズが何かを報告しているのであろう後ろ姿が。そして、私の見間違いかもしれない。



「ふふ、あんなに小さかったのにローズも母親になったのね」


「うー…嬉しいし喜ばしいことだけど複雑だよ…孫も可愛いけどさ!昔は俺と結婚するって言ってたのに!!」


「娘なんていつかは父親の元から去るものよ。諦めなさい」


「ひどい!!」


「ひどくない!全く、父親らしくいい人に出会えたことに感謝しなさいよ。アランさんとシェイリーさんの子よ?」


「それが尚更なんか悔しい!!」



優しげなピンクの瞳と少し潤んだ恨めしげな緑の瞳と目があったような気がした。


ありがとう、私たちの愛しい子をよろしくね、と女性の声が聞こえて、ローズを不幸にしたら君…はローズに嫌われそうだからアルを呪うからな!と真面目なのだろうが思わず吹き出してしまいそうな恨み言が耳に届いた。


温かな風がまるで優しい手に包まれるように触れる。それにレイラがご機嫌そうに笑った。



「守ります。貴方達の分まで、私の愛する者たちを」



幻覚だったとしても幻聴だったとしても、この言葉と誓いは現実だ。



「シリル様」



柔らかな笑みを浮かべた誰よりも愛する人に手を伸ばし、私はその手を包み込むように握りしめた。