ぎょっとするわたしに対して目の前の人は「うん?」と不思議そうに首を傾げる。いや、そうしたいのはどちらかというとわたしのほうなんだけど?!
「あれ?俺ちゃんと言ったでしょ。君のこと結構好きだって」
「いいいい言ったけど!!?でもっ、そんなっ、え!!?」
あっさり言われてそんなの本気にとるほうがおかしいでしょうが!!なんかそういう恋愛めいた照れみたいなのとか感じられなかったし冗談だと思うじゃない普通!!!えっ、違うの?!!
ボッと火が付いたみたいに一気に顔が熱くなる。恋愛とか告白とか、幼いときは母親とほぼ2人きりで生活して、それ以外では男どころか心を許せる人にも恵まれないで人間関係構築したこともないわたしにわかるわけないでしょ!?もっとわかりやすく態度にだしなさいよ!!
八つ当たりだとわかっていてもついそんなことを思ってしまうぐらい人生の中で一番混乱していた。でも、そう、胸の中を占めるのは混乱だけ。その中に嫌だとか面倒だとかいう負の感情はなくてむしろ…
「迷惑だった?」
こてん、と首をかしげてこちらを見つめる旅人に無意識のうちに勢いよく首を横に振っていた。それに嬉しそうな表情をする目の前の人になんだか泣きそうになってしまった。迷惑だなんて思わない。思うわけないじゃない。
初めは憧れだった。のびやかに歌をうたうその人はわたしの焦がれた自由を持っているように見えたから。実際に旅の話をしてくれて、いろいろなことを教えてもらって憧れと少しの嫉妬も覚えたけど、いきいきしている姿がやっぱりまぶしくて。
一緒の時間を過ごして、不思議な旅人がどんな人なのかを知るたびに心がくすぐったくて、心地よくて。でもそんなことを考えてしまったらすきを見てここから逃げ出すことを躊躇ってしまいそうだったから気持ちにそっと蓋をした。
わたしを連れ出してほしい、一緒に行きたいと思ったことだって何度もあったけど、自由なこの人をわたしが縛ってしまうかもしれないと思ったら言い出せなかったし言いたくもなくなった。わたしが憧れたのは、好ましいと思ったのは自由なままの旅人だったから。


