「ほっぺ、汚れてるよ?」



女の子にひどい乱暴するねぇ、とマイペースにわたしの頬を拭うことにお礼も言えずにただ目の前の人の綺麗な顔を見つめる。体についた砂も丁寧に払ってくれてありがたいといえばそうなんだけど…


チラリ、視線を少し横にずらせば今もうねうねしている蔦に絡まれている男。しかもすでに全身蔦だらけで男の影すら見えず、それでももがいているのでちょっとしたホラーである。うん、ドン引きです。え、これスルーしてるけど聞いたら終わりだったりするの?でも気になる。



「あの、これ、」


「ん?あぁ、死にはしないだろうから大丈夫だよ。いざとなったら仲間が助けてくれるんじゃない?」



のほほんと答えてくれるけどそうじゃない。いや、それも気になったけどそうじゃなくてこの摩訶不思議現象に対してどうしてそんなに普通でいられるのって話で!


疑問はいっぱいあるのにパクパク動かすだけで肝心の言葉が出てこず結局口を閉ざしてしまう。流されるままに立たされてスカートや足についた土もきれいに落とされてから改めて目の前の人を見つめた。


最後に会った時と全く変わってない……って当たり前か。そんな何かが変わるほどの時間は経っていないわけだし。でも不思議と懐かしく感じるのはそれだけ会っていなかったときの時間が長く感じたからなんだろうな。



「いやぁ、見つかってよかったよ。いろいろ準備してたら遅くなっちゃってさ。屋敷に行ったら君はもうお嫁に行ったって言うじゃない?焦ったよ」



あはは、と暢気に笑う様子に「あぁ、だから来なかったのか」と納得しかけるが違和感に首を傾げる。準備って、旅の準備よね?それでなぜまた屋敷にくるんだ。そのまま旅立てばよくない?



「知らないまま君の父親?になるのかな。その人に君をもらいますって言っちゃったもん。すっごく恥ずかしい目にあった」


「はぁ……はああああぁぁっ?!!」



今なんて言ったこの人!?わたしをもらうって、えっ?!!