わたしが知っているのは旅をしていることと植物が好きなこと、歌がうまくて自分が人よりもきれいな見た目をしていることをわかってるけど本当の意味では理解してないこと。あと運動神経がよくて話も上手でたまによくわからないことを言う……ああいうのを天然っていうんだと思う。
身長が高くてよくフードを被っていて、そのせいか外にいる時間が長いのに肌は白くてきれいで、手はわたしより大きくて……初めて感じた男の人の手だった。
ぼんやりと意識を飛ばしていたからだろう、がさりと音が聞こえたと思った瞬間にわたしの体は強く地面に倒された。反射的に逃げようとするけどがっちりと腕を背中で固定されて動かすと痛みが走る。
というか仮にもか弱い嫁入り前の乙女にこんな乱暴なことするなよ!と心の中で悪態をつきつつ首を捻れば案の定、そこにはわたしを追っていた1人の男の姿が。手のひらが迫っていて恐怖から目を閉じればわたしの髪を覆っていた布が取り去らわれた。
夕日を反射してこぼれるのはチョコレートのような甘やかさをもった艶やかな濃い茶色の髪。恐る恐る開いたそこにあるのはピンクの花びらを煮詰めたような色をした瞳。こんな特徴のある人間そうそういないだろう。
「こいつだ。依頼にあった女だ」
あぁ、捕まってしまったと絶望で目の前が暗くなる。気づかなかったわたしが悪い。大丈夫だと気が緩んで油断していたわたしの自業自得。わかってる、わかってるけど…
手が届きそうだった、もう少しで確実に届いたはずなのに、こんなところで…っ、
悔しさで視界がにじむ。自分が憎たらしくて不甲斐なくて、もうきっとわたしが望んだ自由が手に入らないことを自覚して溜まった雫が一粒地面に吸い込まれた。
「みーつけた」
え、と言ったのはどちらだったのかわからない。ただ、わたしはまるでおとぎ話の中にでてくるように植物の蔦が急激に成長してわたしを捕まえていた男をぐるぐる巻きにしていくのをぽかんとして見ていた。
…いや、だってわたしにも何が起こっているのかわからなかったしわたしを捕まえに来た男をわざわざ助けようとも思わなかったし。だとしたら黙って見ているしかなくない?
「大丈夫だった?」
声をかけられてハッと後ろを見ればそこにはちょうどフードを下ろしたあの不思議な旅人がいて。
「なんで…」
たくさんの意味を持ったそれに答えるようにその人は綺麗な顔をほころばせた。


