い、いやいや待て待て待て。もしかしてわたしじゃいかもしれないし?周りに女性いないけどわたしじゃない可能性だって、と希望をもって振り返ればばっちり目がこっちに向いていた。
あまりのことに硬直するわたしにどんどん距離を詰めてくる人……逃げたら絶対追ってくる。そんなことはわかっている。でもこのまま瞳の色と髪の色を確かめられたらどっちみち捕まる。それならとる選択肢は1つ。
「あっ、待ちなさい!」
待てるものか!!!逃げる一択!!!
全速力で森の中に突っ込んだ。道だとすぐに追いつかれるし障害物の多い森のほうが時間が稼げそうなのと、あわよくば隣国に出るかもという打算から。え?不法入国?なにそれおいしいの?
足元が不安定で転びそうになりながらも速度は緩めない。後ろも追ってきてはいるものの木の枝に引っかかったりしているようで足止めをくらっている。よかった、身長低くて!
ぜぇぜぇ言いながら走り続ける。自分がどこを走っているのかなんてもうすでにわからなくなっている。方向はあっているはず……あぁもうしつこいんだけど後ろの人!諦めてよ潔く!男でしょうが!!
慣れない全力疾走と疲労、ついで思っていた以上のしつこさにイライラする。そりゃあ仕事だから仕方ないかもしないけどわたしと違って失敗しても怒られるだけなんだから甘んじて受けてほしい。こちとら一生を賭けているんだ。
一度止まってしまえば足が動かなくなるのはわかっていたから苦しくてもつらくても止まらなかったのに、神はわたしを見限ったらしい。
「ぎゃっっ!!?!」
慌てて足を止めるが勢いはどうにもならなくて無様に転んでしまった。顔面からいかなかっただけまだましだけど、手のひらが無残なことに……痛い。血も出ています。自分の手だけどなんとも言えない。
乱れた呼吸を意識して整えながらそろそろと視線を上げる。見えるのは青々とした緑で、こんな状況だけど自然の雄大さを感じて見とれてしまった。
まぁあと数歩行ってたらその下に落ちてただろうからゾッともしたけど!!あっぶなああぁぁ!!?気づくのが遅れてたら死んでたよ?!なんでこんなところ崖になってるわけ!!平面じゃいけなかったの?!?


