「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
時間を確認するともうだいぶ深夜に近いらしく、見回りの者だろう明かりが動いているのがわかる。朝起きるのが遅いと嫌味言われるから避けたいんだよね。
「あと、もうここに来るのは止めたほうがいいと思うわよ」
今まで見つからなかったからこれからも見つからないとは限らないし、わたしの嫁ぐ準備が完全とはいかないまでもほぼ整っている状態なら多分監視、じゃなかった警備だって厳しくなるだろうし。
確かにこの時間が無くなると考えると寂しい。けどだからってそれが原因でこの家に見つかって捕まったなんてなったらわたしの良心が痛む。捕まった後の未来なんて使いつぶされるしか思いつかないし。
何より、わたし自身が自由が似合うこの人を不自由の鎖に繋ぎたくはなかった。自分に重ねて見ているのかもしれないしただ単にわたしが悪者になりたくないって心理が働いているだけかもしれないけど。
忠告はしたしいいだろうと窓を閉めるために手を伸ばす。窓枠に触れた瞬間手首が掴まれて思わずビクッと反応してしまった。驚いたのもあるけど今まで一度だって触ったことなんてなかったのに…
この手はどういう意図なのかといぶかしく思う気持ちと異性への緊張でドキドキする。だって今まで色ボケとか下種っぽい人はともかくこんな年の近い男の人に触られたことなんてないし、と考えて無性に恥ずかしくなった。
「な、なにっ…?」
「んー……君は強いなぁって」
「え?あ、ありがとう…?あの、手、」
離してほしいんだけど、と言う前に軽くきゅ、と握られてそこまで出かかっていた言葉が止まってしまう。


