エスケーピング


「もう老後のことまで考えてるんだ」

「杏ちゃんも老後はこの街で過ごそうよ」

言葉に詰まった。

私はこの街が特別好きなわけじゃない。


それに、ここには家族が住んでいるもの。


「花音、杏を困らせんな」

誠也くんがきっと私の微妙な表情を察して言った。

真面目にでなく、冗談を含むような言い方が誠也くんの優しさを感じる。


誠也くんの優しさはいつだって、花音に、だ。