「――危ないっ!」
呪文を詠唱する間もなく襲いくる獣に瞳を移す。紅く瞬く眼が、正常な状態にないことを示していた。
まずい。
もう一体いたのか。
額を嫌な汗が滑り落ちたそのとき、獣の眼より赤い、明るい朱が目の前に落ちる。
燃え盛るそれを生み出したのは、ソラくんだった。髪は乱れ、彼にしては珍しく焦った表情で。
彼は炎で焼かれ痛みに悶える獣を一瞥すると、こちらへいつもの柔和な笑みを向けた。
「怪我はない?」
「大丈夫…ありがとう、ソラくん」
「どういたしまして! 立てる?」
ソラくんが差し出してくれた手に掴まり、立ち上がろうとしたとき、彼の瞳がおかしいことに気がつく。
名前の通り、アクアマリンのような空色のはずが、濁った紫色になっている。
「…………ソラくん、それはーー」
「噛まれたわけじゃないよ、安心して」
いつものように笑ってみせるソラくんだけど、眉が苦しげに歪んでいる。どう見ても異変が起きている。
「で、でも、その目」
「血が足りないだけ」
「ソラくん、怪我してるの? だったら私が回復魔法を」
「違うよ、これ、回復は不可能なんだ」
諦めと、悲しみが混ざった表情だった。