こうして一人で海に来たのは初めてだ。

早朝の海は、寒さで凍っているのではないかと疑ってしまうほど静かだった。

海岸の隅のテトラポットに腰掛けながら、私は白のツィード素材の鞄から携帯電話を取り出した。

「心配してるだろうな……」

はぁ、とひとつ吐いたため息にさざ波の音が頷くように重なった。

冬の海は色をなくしたように殺伐としていて、私の中に空いた穴を埋めるには不十分だ。

夏は人が集まり色で溢れて賑わうこの場所。

寂しい?


……違う。

清々したんだ、きっと。

同じ名前がずらりとならんだ着信履歴に目を移す。

2、3分おきの不在着信。


ほら、うざいし。