湿った地面を踏みしめながら少女に近づく。


ホタルの明かりに照らされて、彼女の顔が見えた。


彼女は茶色がかった瞳を見開いて、僕をじっと見つめていた。



「悠人、思い出してくれたの?」


震える声で僕に問う。


「記憶……戻ったの…?」



……記憶?


目の前の少女はどこか期待した様子で僕をうかがっている。


ああ、そうか。
思い出した。



「君は……僕が事故にあった日に病院にいた子だろう?」



彼女の前から蛍火が消えた。




「…それ…だけ……?」


「……え?」


「私の…名前は?…一緒に水族館に行ったことは?…毎日駅で私の寝癖を直してくれてたことは?……どうして……」


顔が見えなくても、その声だけで彼女が涙を堪えているのが分かった。


僕はただ、彼女を泣かせてはいけないと思って、何も言えなくなってしまった。



ホタルの光が、涙のように降り注いだ。