｢無理、しなくていい。お前にとって、この人は、とても大切な人だったんだろう？今までの想いを、全部伝えてあげるんだ。俺は向こうで一服してくるから、好きなだけ話すといい｣

隣の男性が彼女を抱きしめてそう言った。そして本当に離れていってしまった。ここに残されたのは2人だけ。少し気まずい。

｢ごめんね。聞きたくなかったら聞かなくていいから。私の想いを、後悔を、未練を、全部伝えさせて｣

｢……………｣

そして彼女は全てを語った。正直、聞いているのは辛かったけど、それでも一語一句逃さずに聞いた。それは、俺が願っていた未来で、きっと誰もがそうなると思っていた未来で、そして2度と叶わない未来だった。
僕は彼女に触れる事ができなかった。頬をつたう涙を拭う事も、震える彼女を抱きしめる事も、何も出来ない。それがとても悲しかった。