「娘を…よろしくお願いします」

白髪の混ざった頭を下げながら父が言った。

「はい。必ず、幸せにしてみせます」

少々ぎこちないスーツに身を包んだ彼が答えた。

私の家は東京の郊外にある木造建築の平屋建てです。周りを自然に囲まれ、とても静かに時が流れていく場所です。大学に進学すると同時に都心に出ていき、かれこれ5年程経った頃でした。私は大学時代に付き合い始めた彼と結婚を考え始めました。そしてとうとう、家族に紹介しました。父は
「そんなどこの馬の骨かもわからないチャラチャラした男など!!」
と言っていましたが、彼と話す内に気に入ってしまい、最後には笑顔で祝福してくれました。

「お前の親父さん、凄く怖くてビビったよ」

「みんなそう言うの。でも、凄くいい人よ」

「うん、わかってる。とりあえず挨拶も済ませたし、ここからは段取りを考えていかないとな」

彼はそう言って笑いました。少し彼の事を話すと、昔は不良少年で警察にお世話になった事もあるそうです。頭だけはよかったので、中学卒業と同時に独学で高校へ進学し、その後は家出同然に飛び出して高校卒業後はそれなりの企業で働いています。実家とは音信不通で今では家族がどこにいるのか、生きているのかさえ分からないと、少し寂しそうに話してくれました。
そんな彼と出会ったのは、都心に出て右も左も分からない私が犯罪に巻き込まれかけた時です。田舎育ちでそういう事に疎い私は若い男性に言われるがまま、成人向け作品のモデルとなるところでした。そんな時に、彼が割って入って助けてくれたのです。それから私と彼は度々会うようになり、付き合い始めました。