今朝、来た道を戻る
デパートは開いていて
ショーウインドーには
もう秋物のニット
− 暑い
サラリーマンや
会社に行く人とは逆走状態
ドラッグストアなんかが
並ぶ通りは
店員の人が品出ししている
駅前の交差点
歩行者用の信号が
赤から青に変わる前に
『彼』は、車側の信号が赤になって
車が止まった途端
歩き出した
…危ないのに
エスカレーターに乗って
駅の構内に着くと
『彼』は窓口に立っていた
駅員さんに
顎からの、頭を下げない会釈をしてる
少し猫背
ゴツゴツ
また音を立てて
こっちに歩いて来た
両手で×のポーズ
それから、私の前に立ち戻って
天井にある
発着電光掲示板、その横の
大きなアナログ時計を見てる
『…20分位前に
俺らが乗って来た電車
戻って来てて、また発車した
そうすると
それがまた一周して戻って来るのは
2時間15分後』
「…何でそんなのわかんの」
『俺
時刻表とか、ああいうの
覚えるの好きなんだ
バスの名前とか
国旗とか』
「お オタク?!!」
『…俺別に 歌唄うの 得意じゃないよ』
− …カチンと来た
「あんなに上手くて
何いってんの…?!」
『上手いのと
したい事とは違うでしょ
…鳥に人間は憧れるけど
鳥は
「飛べるから飛んでるだけ」
かもしれない』
「…歌えるから、歌ってるって事ですか」
『うん』
「…じゃあ
本当は何がしたいんですか」
『…わからない
だから、
苦しいから
歌ってるだけ
歌ってないと 死にそうになる』
そう言って『彼』は
手を伸ばし、
両手に拳を握って
目を覆った
− その腕を下ろした時
虚空を見るみたいな目が見えて
泳がないと死んじゃうマグロかよ!
って思い付いたツッコミが
とっさに、
入れられなかった


