「……ユカちゃあん…」
「ユリちゃ……」
覆い被さる様に
抱きついて来たユリちゃんを
ただギュッと抱きしめた
トイレに入って来た
緑川さんが
その光景にぎょっとしてて
一度バックステップしてから
またスキップして入って来た
「はい 暖かいお茶にしたよ」
「…すいませ…」
ユリちゃんは
ずっと泣いてる
緑川さんは、何も話してないのに
黙って私達を
トイレの通路奥の
誰も来る事が無いような
非常階段まで連れて来てくれた
−高層ビルの明かりが見えて
夜の高い場所に
幾つもの、赤い粒の点滅
視線を近くに戻すと
階段の上には
薄ぼんやりとした
小さな外灯がついていて
狭いそこに
私達が二人、座ってる
緑川さんは一番下で
手摺りに背をもたれてて
肘まで折った
シャツの腕には
小さなトカゲが住んでた
− 節の、長い指
少し長めの
肩くらいまでの茶髪
白のYシャツ
黒いスラックス
掘りが深い顔で
『彼』が言った通り
両耳に、すごい数のピアスをしてる
−Cheaの他の三人とは
少し違った雰囲気で
何でかわからないけど
この人と二人だったら
ここに来なかったなって
緑川さんには
そういう空気があった


