未来へのメロディー

教室にたどり着いたちょうどいいタイミングで、担任と生徒会室から帰ってきたであろう橘の姿が見えた。

「お待たせしました。では3人とも教室に入ってください。」

扉を開けると、騒がしかった教室が一気に静まり返り視線がこちらに集まった。少しドキッとする。
私はどうしたらいいのか解らなかったので、扉の横に立っていた。
あからさまに不機嫌な顔をしていたと思う。
彼女はというと私とは反対に笑顔で堂々と教卓の前に立った。あとに続いて担任が入ってくる。

「皆さんには事前にお伝えしていなかったのですが、今日からこのクラスに転校生が来ます。」

静まり返っていた教室がいきなり騒がしくなる。声がそれぞれ浮わついている。

「では、紹介します。高谷 花音さんです。」

と、先生が言うと後ろを向いて黒板に名前を書いた。
自己紹介をどうぞ、と担任が促すと満面の笑みを作った。

「東京芸術大学付属高校から転入して参りました。高谷 花音といいます。よろしくお願いいたします。」

それこそクラス全員が騒ぎ始めた。騒々しい。
耳鳴りがする。

「はい、それでは皆さん拍手をお願いします。」

疎らな拍手と話し声に包まれたまま、彼女は深々とお辞儀をした。

「とりあえず、今は後ろの方の席に座っていてください。」

担任が指差したのは、私のひとつ後ろの席だった。

「では、2人も席についてください。ありがとうございました。」

死んだ顔をした私と、それを見ておろおろしているのが伝わる橘は、元の席についた。

「では、本来のロングホームルームの時間に入ります。」

担任が何やら話始めたが、私は内心それどころではなかった。
色々なことがありすぎて疲れた。
机に突っ伏して寝ていると、後ろから指で背中をつつかれた。

「席、後ろ前だね!」

「そうね。」

どんな顔をしていたか考えたくないが、この世のものでないほど暗い声が出たのは確かだ。

「そんなに暗くならないでよ~、仲良くなれそうだと思ったんだけどなぁ。」

「あ、そう。」

うまく返事ができない。
元からこんな感じだった気もするが。

「ねぇ?」

「何。」

悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。

「真梨ちゃんのこと、もっと教えてよ。」

は。

「教える事なんて何もない。」

「なんで?そんなこと言わないでよぉ、教えてよ。」

そこで彼女はまた元の可愛いらしい笑顔を浮かべて言った。

「誕生日とか!」

はぁ…。
こいつといると疲れる。

「4月1日。」

彼女は考え込むように視線を下げた。
そして何か気づいたように顔を上げて、笑顔を作った。