【奏太side】


同じ班の真田と火起こしを始めてかなりの時間が経ったと思う。

時計を見ていないから正確な時間はわからないけど、真田と交代で火起こしをしているのに、手のひらは痛いし額には汗が浮いてきているから。


1本の棒を板に擦りつけて、その摩擦熱で火を起こすという原始的な作業を無心で続けながらも、思い出すのは山の頂上で見たありすの不安そうな顔と戸惑いに揺れる瞳だった。

せっかく呼び方が "伊藤君” から "奏太” になったのに、一生口をきいてくれなくてもおかしくないようなことをしでかしてしまった。

心底嫌だったけれど、背に腹は変えられなくて。

今朝から斧田と手を結んだのもその1つ。

斧田があの手この手でありすとジェイクの接触を少なくしてくれて、2人を引き離してくれた。

それを利用して、俺はありすと2人きりになれるチャンスが作れた。

そしてそのチャンスを利用して…

明らかにジェイクと両思いだと思うのに、それを完全否定するようなことをわざと言った。

おまけに俺の言葉で動揺している隙をついて無理やりキスするとか…自分の中にこんなにどす黒い気持ちがあったなんて驚いた。