「……えっ。な、なに?」

明らかに見える動揺の色。


「虫が飛んだの見えたから。目に入るし、じっとして目つぶって」


虫なんて嘘だ。戸惑いながら両目をつぶった澤口さんの前髪を、指先でささっと払う。

俺の手がその前髪に触れた瞬間、澤口さんは目にさらに力を入れて、ぎゅっと固く閉じた。


両肩は震えていて、頬は赤く染まっていた。


「もう目を開けてもいいよ」


そう言って俺はまた、もともと座っていた自分の場所へ戻った。

その瞬間に澤口さんが安心したような大きな溜息を漏らした。

多分息を止めていたんだろう。


でも実は彼女に触れた瞬間は、俺の中でも何かがきゅっと縮まる音がした。


彼女が固く目を閉じたとき、俺に触れられるのを拒むようにも見えたんだ。

それは緊張からくるもので、決して俺を拒んでいるわけじゃないとはわかっていたが、なんだかそれが切なくなった。


最初の予想通り、澤口さんは間違いなく俺を好きになった。


だけど俺自身の気持ちも澤口さんの方向へ向いていることに気づいたことは、さすがに予想外だった。