澤口さんはあれから3枚の絵を描き上げた。

一番最初に見せてもらった春の晴れた海。

グレーの空にモヤで水平線をぼかした、どこか寂しい海。


そして夕焼けが映る神秘的な海。


俺らの見ている海は太平洋だから、海に夕日が沈む景色は見られない。

それでも海に映るオレンジ色は、暗い海の表面で静かに光をはね返す。


俺は絵については詳しくないけど、その寂しくて、でも優しい光を絵に表現できるのは澤口さんだからだと思った。

会話は少ないけど、澤口さんのまとった雰囲気はこの夕方の海の絵に近いと感じたんだ。


美術部の放課後の活動は毎日ではないから、こうして夕方にも一人で来ていて絵を描いていたそうだ。