俺らの住む浜白(はましろ)市は人口が約4万人ほどの、都会とは程遠い港町。

海に面した浜白市の産業はやはり漁業が中心で、俺のクラスでも高校卒業すると船に乗るって人は少なくはない。


ここまで聞くと潮風とか爽やかなイメージを持たれがちだが、浜には水産加工場が多く並び、風が強い日なんかは独特のにおいがする。


潮で車や自転車が錆びることもあるからメンテナンスはこまめに行わないとならないんだ。

父さんも休みの日には、愛車のヴェルファイアを洗車している。


観光協会がぼんやりしてるのかそれとも市全体がそうなのかはわからないけど、港町のわりには観光に力が入っている様子はない。

ただ市民がのんびり暮らしている、のどかな街だ。


さらに俺らの家がある岬町(みさきちょう)は、浜白市の中でも特に海に面したところにある。


俺は毎朝その海を眺めながら、自転車で30分かけて西条高校に通う。

小さな頃から海を見て育つと海に関心がなくなる人も多いけど、俺はそんな風には思わない。


確かに沖縄みたいなきれいな海ではないんだ。

だけど今日みたいに晴れた日は空の色より海の色が濃くなって、その上に漁船が泊まっている。そして空にはカモメが気持ちよさそうに飛んでいて。


俺はそれをただぼんやり見るのが好きなんだ。