それから日は沈み、空はすっかり黒に包まれた。


咲耶は食客部屋の隅にぽつんと座り、開け放たれた襖から見える月明かりにうっすらと照らされた庭の景色を眺めながら、

(月の光りって、結構明るいんだ)

なんて考える。


常に人工的な光が照らされている現代にいた咲耶にとって、自然の光で照らされる風景はとても新鮮なものだった。



すると、庭とは反対側の襖が開く音がして咲耶はゆっくりと首を動かした。


「平助さん」


少し開いた襖から顔を覗かせていたのは平助だった。


「どうかしました?」


咲耶が尋ねる。


「後で話聞かせてもらうって言っただろ?

あ、あと"さん"はいらないし、敬語もいいよ」


平助はそう言いながら咲耶の隣に腰を下ろす。


咲耶は表情一つ変えないまま言った。



「わかった、藤堂」


「…っなんで苗字の方なんだよ!?

名前だろ普通!!」


声を上げる平助に咲耶はプッと吹き出す。


「冗談だよ、平助。」


「はぁ………
なんかお前、宗次郎に似てる気がする…」


「宗次郎って…沖田さん?私が?」


首をかしげる咲耶。


(沖田さんって、あのふわふわした感じの人だよね。

似てる部分なんてあったかな?)



「って、こんなこと話しに来たんじゃないんだよ!

お前、昼間の試合すげえ強かっただろ!?
太刀筋といい力の強さといい……、お前がいた時代とやらでは当たり前に女も剣を習ってんの?」


「えっ、私ってそんなに強い?嬉しいなぁ!」



両頬に手を当ててわざとらしく照れたような仕草をする咲耶を平助は呆れ顔で見つめた。