ねぇ。



あの頃あなたは幸せになりたいってばかり思ってたね?



でもあなたにとっての幸せって何だった?



計り知れないくらい沢山の未来



それだけで充分だったんじゃないかな?



今の私ならわかる。



もし伝えることが出来るなら…自分を時間を大切にしてほしい。





「美里ちゃ~~ん。ねぇ~ディトしようよ~」

私はニッコリ笑いながら。

「そぅですね~。また今度」

そう言ってお客の汗ばんだ手を取る。
お客は嬉しそうに私の手を握り返し。

「約束だよ。また指名するからね?」

と名残惜しそうな顔をした。


お客なんて正直チョロい…
ちょっと面倒なだけで、チャホヤされながら普通に働いている人よりずっと沢山のお金を貰えるんだから有り難い。と思わないと…。


私、湯川紗南。23歳キャバクラに勤めている。店での源氏名は美里。

もちろんこんな仕事ヤりたくてやっている訳じゃない。抵抗がなかった訳でもない。


でも全てはお金の為…。

あの頃の私にとっては、夢とか未来とかそんな形のない幻想より。たった1人側に居てくれる人が何より大切だった。


「あんな男ヤメタほうがいいよ!」


仕事帰り送迎の車に後から乗り込んできた京子ちゃんが私の手から携帯を取り上げる。

私の大切な人。優ちゃんは嘘つきだし、浮気性、何より借金だらけ。


「アイツの借金返すのにこんな仕事してるんでしょうが?」


ロクな男じゃない。

だけど、優ちゃんにとって私が必要なように
私には優ちゃんが必要だった。