無意識に彼の名前を呼んでしまった私の声は、彼に届くことなくオレンジ色の空に消えていく。


「どうした?」

「…え?」


こうして面と向かって話すのは初めてだけど、あたしがこの人を知らないはずがなかった。

学校中の女がこの人が総長を務める紫苑に憧れているのだから。

だけど、あたしは優真一筋だったから眼中にはなくて、イケメンだな程度にしか思っていなかった。

まさか関わる日が来るとは思っておらず、こうして目の前に彼がいることを信じられなかった。


「…泣いてるからなんかあったのかと思って」

「えっ、」


そういえばさっきまであたしは号泣していてメイクは崩れているんだった。

出会うには最悪のタイミングだ。


「失恋、しちゃって」


仕方がないから今できる最高レベルの可愛さで媚びを売ろうと、上目遣いで彼を見つめる。自分の可愛い角度はもちろん把握している。

優真が取られてしまった今、新しい出会いが必要なのだ。


「レオさんはどうしてここに?」

「レオでいい。たまたま通りかかっただけだ」


そう言うとレオはあたしの目の前にしゃがみこみ、あたしと同じ目線になった。

優真以外でこんな近距離は免疫がなくて、ドキリとする。

レオがイケメンだから余計にかもしれない。

動揺がバレないように、あたしはレオをじっと見つめ返し、彼が何か言うのを待つ。