今時、美術なんて流行らないし、地味で目立たないから誰からも嫌われた。

けれど私は、美術部にいる。

遠杉留羽(トオスギ ルウ) 高校2年生。たった一人の美術部員。

別に美術が好きなわけじゃない。
じゃあ何故わざわざ、美術部に所属したか……それは、自分の居場所を確保するため。

両親は海外出張で留守。もう私が高校生だからと、二人とも私を残して、遠くへ行ってしまった。

別に寂しくはない。
いつも、一人だったから。

私は、親からの愛情というものを、知らない。

いつも、両親共に仕事仕事と、学校の行事があったって、面談以外私のことで訪れる事はなかった。

幼い頃は風邪をひきやすくて、よくお母さんに怒られていたっけ。

『お願いだから、仕事の邪魔をしないで』

いつも眉間にシワを寄せて、そう言ってた。

だから、慣れていたからこそ寂しくはなかった。

ただ、やっぱり子供より仕事を選ぶ、冷たい人達なんだと、改めて思い知った……それだけのこと。

だから家には誰もいない。そんな静かすぎる場所に居たくはなかった。

何でもいいから、暇潰しの場所が欲しかった。

それでたまたまヒットしたのが、部員が少ない美術部だったのだ。

それに、部員が少ないことで人付き合いをしなくて済む。
名前のことで、また冷やかされるのは気が退けた。

昔はよく変な名前だとからかわれて、自分の親を憎んだ。
どうしてこんな名前にしたのって。
でも、泣いてそう言う私にお母さんは言った。

『何があっても留まらず、羽を広げて飛び続けてほしい。』

自分の変な名前に、そんな意味が込められていたことを知ってから、私はからかわれても平気でいられた。

だって、親からの唯一の愛情に思えたから。

当時は幼かったし、愛情が欲しい時期だったからそう思ってたけれど、今はただ単にいちいち気にするのが面倒になっただけ。