生むことを決意した次の日。
奈津子さんと一緒に
良孝さんに全てを話した。
良孝さんは、表情ひとつ変えずに
優しく微笑んで、
「自分で決めたことなら、最後まで貫き通すんだよ?梨心ちゃんの行いが全て無駄にならないように、僕も支えるよ。頑張ろう。」
そう言ってくれた。
なんて優しい家族なんだ。
涙が溢れた。
その日のお昼すぎ、
休みをとってくれた奈津子さんと
産婦人科に足を運んだ。
先生に呼ばれ中に入る。
「産むことに決めました。」
先生は、一瞬驚いた顔をした後
安心したかのような表情に戻った。
「わかったわ。頑張りましょう。
全力でサポートするわ!」
その日から私の過酷な日々がスタートした。
休みがちになっていた学校に足を運ぶ。
大丈夫、今まで通りの生活をするだけだ。
そう思っていたのもつかの間だった。
下駄箱で瞬を見かけた。
久しぶりの瞬。会いたかった瞬。
「....しゅんっ......え......?」
瞬の元へ近づこうとした時だった。
靴箱の影から出てきたのは
瞬と、
手を繋いだ女の子。
え?なに、その子......誰なの?瞬...。
「瞬?.....その女の子だれ...
「話しかけんなよ。」
私の言葉は瞬の一言によってかき消された。
横でププッと笑う女の子。
私を哀れみるような瞳で見つめ
瞬と手を繋いだまま去っていく。
ああ、終わったんだ。
もう瞬には他の子がいて、
私なんか必要じゃなくなったんだね。
重たい足を運んで教室に入る。
周りからはクスクスと笑う声
"かわいそー"とか、"ありえない"とか。
なにが?
なにがかわいそうで、なにがありえないの?
私はなにも理解出来なかった。
私は自分の席に座り、
久しぶりに会った友達に声をかけた。
「ゆいちゃんおはよ!」
「......」
仲良しだったはずの子も、ゆいちゃんも
みんな私に返事をしなかった。
そのまま席を立ちどこかへ言ってしまう。
なんで?
私は理解出来なかった。
そのまま授業が始まり、
私は最悪の事態に気がついた。
ノートを開いた瞬間、目を見開いた。
「.....っ!?」
なに、これ........。
周りからはクスクスと笑う声。
「.......なに、これ......」
目の前には"尻軽おんな" "キモい"
などの言葉が殴り書きされている。
なんで、知られてるんだ。
しかも、どんな事情でこうなったかも
知らないくせに。
だから瞬も、ゆいちゃんたちも
みんな私を避けたんだね。
何も知らないくせに。
私は何も悪いことしてないじゃない。
何も、悪くないじゃない。
────────
その日から、私はずっとひとりだった。
もう誰も信じない。
本当に、信じてもいいのは奈津子さんと良孝さんだけ。
信じたって、どうせ裏切られる。
その日から私は少しづつ感情が薄らいでいた。
妊娠してから5ヵ月と少しがたった。
お腹が少し目立ってきたので
私は学校を休むことにした。
学校には、奈津子さんから事情を説明してもらって、
私は家で家庭教師をつけてもらった。
そのお陰で学校から届いたテストでも
他の子と同じくらいの点数が取れたし、
3年生に進級も出来た。
3年生になっても学校には行かない。
もう私はひとりの妊婦同様の体だ。
自分の体が、お腹が、
こんなふうになってるのは
毎日鏡で見て驚くばっかりだった。
4月の半ば、私は急激に体調を崩し、産婦人科に入院することになった。
妊娠8ヵ月と、1週間が経った頃。
朝方に、前駆陣痛が始まった。
その次の日に本陣痛が来て、
私はその数時間後、無事赤ちゃんを出産することが出来た。
4月12日 午後6時38分 だった。
病院の先生は「良く頑張ったよ。」と、
奈津子さんと、良孝さんは
ずっと泣いていた。
私は赤ちゃんを抱いても
自分の子供だという感覚がなかった。
出産が予定日より1ヵ月以上早かったため、若干未熟児で産まれてきた。
私がこの子を育てるの?
私は、そんな不安だけをかかえた。
