それから1ヵ月が経った頃。
夕食を食べ終えた私は吐き気がしたのでトイレに向かった。
そんな吐き気が2・3日続く。
嘔吐するわけでもなく、ただただ吐き気だけ。
1週間学校を休んでいた時。
「梨心ちゃん体調おかしいわね.....何か思い当たることないの?」
奈津子さんは心配しているようだった。
「思い当たること.......」
ひとつだけ、あった。
思い当たることが。
でもそんなの言えるわけない。
だけどもしそれが吐き気の原因なら....
私は不安と恐怖で普通じゃいられなかった。
奈津子さんには絶対にバレたくないと思った。
もし.......もしそうだったら.......。
奈津子さんと良孝さんが仕事で家にいない昼間。
「.........産婦人科.....」
私は震える手で身分証など
そのへんのものを1式全て持って
家を出た。
バスに乗り向かう先は産婦人科。
病院に入るなり視線は痛いもの。
そりゃ、そうだよね........
中学生だよ?まだ。
気持ち悪いよね。
こんな場所、場違いだもの。
受け付けのお姉さんだって顔が引きつっていた。
しばらくして名前が呼ばれたので
私は診療室に入る。
「年齢は~...14歳?若いわね。」
良くも悪くも、医者は優しそうな女性だった。
「はい.....」
「じゃあそこのベッドに寝てくれる?」
そう指示されてベッドに寝転がる。
そこから検査が始まり
また椅子に戻った時、
すぐに先生はこう言った。
「妊娠してるわね。」
.......................妊娠。
まだ中学2年生だった私には
全くもって似合わない言葉だった。
耳を疑った。
「.....ぅぅっ...」
声にならない言葉が出る。
「ちょっと話を聞こうかしら。」
先生はそう言って、看護婦などを
部屋から出させて私とふたりっきりになった。
「まだ中学生だし、ありえないわね。
レイプされたのね?」
レイプ。
その言葉を聞いた時、私は何故か少し冷静だった。
私はレイプされたんだ。
「はい。されました。」
「相手の顔はわかるの?知り合い?」
「....学校の、先輩です....。」
「......最低ね。ありえないわ。本当に。」
先生は頭を抱えた。
そしてなんの躊躇もなく、私に質問をしてきた。
「産みたい?産みたくない?」
は?........産む?
私が、赤ちゃんを、産むの?
「まだ14歳なのよ。
考える時間はいくらでもあるけれど
産むにしろ産まないにしろ、リスクはあるわ。」
私の体はもうひとりの命じゃないんだ。
私はそんな事実を知ると
涙が滝のように溢れ出した。
「産みたく、ない......。」
「それが当たり前よね。中絶ね。」
先生はきっぱりとそう言った。
中絶..............?
まだ宿ったばかりの命を殺す。
いや、なかったことにする。
そんなイメージでしかない"中絶"の言葉。
赤ちゃんを殺すの....?
「先生、赤ちゃん、殺すんですか?」
「まあ、その言い方はちょっとおかしいけど、そうゆうことになるわね。」
仕方ないわ。と、先生はそう言った。
「可哀想.....っ」
「まだ、決める時間はあるわよ?
家族の方に相談しなさい。決めたら、来週またここにいらっしゃい。今度は家族の方と。」
私は先生にそう言われ、病院を後にした。
いっそ、死んでしまえばいい。
赤ちゃんも、私も。
母を失ってから、初めてそんな気持ちになった。
妊娠
つわり
赤ちゃん
中絶
私にはまだまだ関係の無い言葉だったはずなのに。
神様はどうして、私にばっかり
罰を与えるの?
