「乗るぞ!」
「乗るよおおおお!!!」
この2人、テンション凄い。
もうアトラクション乗る気満々で
暴れすぎだよ....。
方向音痴の私は迷子にならないようにパンフレットとバトルを繰り広げている最中だ。
トイレの位置と、インフォメーションの位置を入念に確認する。
横にはパンフレットをのぞき込んでくる絢人。
「見る?」
絢人の顔をのぞき込むと
チラッと私の目をみてすぐさま目をそらす絢人。
なに今の~、感じ悪い。
「見ねーよ!俺は誰かさんみたいに方向音痴じゃねえ」
「.....うるさいなっ。」
絢人とわちゃわちゃしている時
「あれ乗ってくる!!
行ってきます!!!!!」
私たちの元へ走ってきた翠ちゃんは、雪ちゃんの手を引いてジェットコースターの方へ走っていく。
元気っ
てか、あのジェットコースター
ここの遊園地で1番怖いやつだよ。
「.....梨心もしかして絶叫系無理?」
「えっ」
なんでバレた。
「顔、引きつってんぞ。ぷっ.....」
腹を抱えて笑う絢人。
おい、ふざけんなよ?
乗れるから。いや、乗ってみせる。
「乗れるし?行こ?絢人。私たちも乗ろうよ。」
そう言って絢人の手を無理やり引いてジェットコースターに近づいていく。
手汗と冷や汗が凄い。
日光のせいじゃないのがわかる。
チラッと絢人の方をみると.....
ゴクリ。と、唾を飲み込む絢人。
だんだん顔色が青ざめていくのがわかる。
もしかして.......ククッ.......
「へえ~、絢人も無理なんだ。可愛い~」
「はっ?おま、ふざけんなよ!よ、余裕だわこんなもん」
絢人は焦って噛みまくり。
私はププっと笑いながらジェットコースターに乗る。
横には絢人。
ま、私いまだいぶ震えてるんだけど!
「やばい無理かも。やだ怖すぎ.....」
「うるせーよ!俺だってこえーよ!」
「よりによってなんで一番前なの!?」
「俺かて知りてーよ!なんでだよ!おい!」
もうプライドも何もかも捨てた私たちは
文句を言い合う。
「きゃっ、動き出した!助けて神様」
衝動的に絢人の手を握ってしまう。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
と、徐々に速さを増していく。
躊躇なく登りつめ、もうこの世の終わりなんじゃないかと目をつむる。
........────ふわっ
一瞬体が浮くような感覚に襲われ叫び声をあげる。
「きゃーーーーー!!!!やばい!やばい!きゃー!!!あーー!!」
「..............................」
ジェットコースターは止まることを知らなくて、容赦なく地獄へ突き落とされる私たち。
横目で絢人を見たらもう無表情で
声も発さずどこか遠くと見ている様子。
失神寸前。
しばらくして、やっとスタート地点に戻ってきた私たち。
フラフラとその場から退散し、近くのベンチに座る。
「.......死ぬかと、思った........。」
「........手......」
放心状態の絢人がようやく口を開いた。
ん?絢人に言われて気付いたが、
私はジェットコースターに乗った時から、今まで絢人の手をずっと握っていたことに気付く。
「あっ、ごめん....怖くてつい。」
「お、おう....」
私たちはしばらくベンチで休んだ。
そこへ雪ちゃんと翠ちゃんが走ってきて
あっちへ行ってくる!!だの
こっちへ行ってくる!!だの.....。
もう、私は疲れたよ孫達よ。
って感じで世代を感じている真っ只中だ。
「あー、マジもう無理。嫌い遊園地」
不機嫌そうに絢人が言う。
「私ちょっとトイレ行ってくる。」
そう言ってその場を離れる。
トイレから出ると、ジュースを2本持った絢人が待っていた。
「お待たせ~」
「ほれ、オレンジジュース」
「え?ありがと!やった!」
絢人が私にジュースをくれたので
嬉しくてつい子供みたいにはしゃいでしまった。
絢人にお礼を言ってジュースを受け取る。
「このあとどーすっかな、てかあのふたりどこ行ったんだ。」
完全に酔いが冷めた絢人は
近くのフードコートに向かいながら呟いた。
「んー、元気だよね。凄いわほんと」
その時だった。
「あれ....?梨心じゃねー?」
............なんで?
意味がわからない。
なんであんたがここにいるわけ?
「梨心、誰あれ?」
先輩.......。
中学時代の、最低な先輩。
「し、知らない......。」
「梨心ぉ~シカトすんなよ!」
そう言って先輩は馴れ馴れしく肩に手を回してくる。
「ちょっと、やめてよ!」
キリッと先輩を睨むと
先輩は気にもせず絢人に視線を移す。
「あっれれ?梨心彼氏出来たんだ?」
「やめてよ!」
先輩の手をふりほどく。
震える自分の手を抑えながら言葉を絞り出す。
「.....関わらないでよ!」
なんでこいつとこんなところで
再会しなきゃなんないのよ。
「は?冷たくね?意味わかん.....
「意味わかんねーのはテメェだろこら。」
先輩の言葉を遮ったのは絢人だった。
先輩より圧倒的に身長も高くて体格のいい絢人に、少しだけ後ずさりする先輩。
「いきなり出てきて馴れ馴れしく梨心に触ってんじゃねーよカス。」
絢人が発したその言葉に
先輩の口から
とんでもない言葉が発せられる。
「あー?触んなって言われてもなぁ.....だって俺ら....」
「やめてよ............」
「なー?梨心ちゃんっ俺らもうとっくに」
「やめてってば...........」
お願い言わないで。
────お願い
「俺らもうとっくにやることやってっからさぁ~♪
なー梨心ちゃん?♪」
私のお願いはあっさりとぶち破られた。
「.......最低.......」
苦しくてそれだけを言うのが精一杯だった。
「っ...」
私はその場から逃げたい一心でとにかく走る。
「おいっ!梨心っ!!」
あとから追いかけてきた絢人に手を掴まれ止められる。
「っ...!離してよっ!!」
「なんでだよ!?!!」
「....離して!」
「黙れよ!!」
そう言って絢人に手を引かれ
ボスッと絢人の胸に抱き寄せられた。
「....っ!あや、と...!」
「なんなんだよお前!意味わかんねーよ!急に逃げんなよ!」
絢人の声は心配しているような声だった。
でも、さっきの聞いたでしょ?
ありえなくない?
やることやってるって...........
そんなこと聞いたら普通軽蔑するでしょっ。
「ごめん.....帰りたい........。」
絢人ごめん.....。
私耐えられないや。
あんな人に、出会うなんて思ってもみなかった。
ここが私の通ってた中学の近くだってことも、忘れてたよ....。
心の中で、高校に入学してから4ヵ月で積み上げてきたものが、崩れ落ちる音がした。
もう終わりだ。
また、軽蔑されるんだ。
また、みんな離れていくんだ。
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