まだ肌寒い季節
さくらが満開の道を前を向いて歩く。

今日から通う『桜ヶ丘高校』
ここらではまあまあ偏差値の高い学校。
そして、制服が可愛い。
偏差値が高い割に、校則がゆるくて
かなり人気のある高校だ。

入るのには苦労したけど。

今まで遠い私立中学校に通っていたこともあって、校則はとてもキツかった。

なので私は春休みの間に
髪の毛をダークブラウンに染め
メイクの練習もした。
いわゆる、高校デビューってやつ。

見た目は.....というと
顔は普通。可もなく不可もなくってとこ。
身長は割と高い方で167センチで、色白。
中学の頃はよく、ご飯食べてる?と
聞かれたものだ。

そこまで貧弱じゃないっつーの!

周りがガヤガヤしてきた頃
私は高校に到着した。
校門には男の先生が2・3人立っていて
ぞろぞろと生徒が入っていく。

私もその1員。
今日から私も念願の、桜生だ。
桜ヶ丘高校に通う人のことを、
このあたりではみんな「桜生(オーセイ)」と呼ぶ。


"新入生はこちら"と書いてある看板を辿って行き、クラス表が書かれた看板の前に立つ。
うーん、背が高いって有利だ。
人混みをかき分けて前に行く必要もなく
男子が前に立っていても
背伸びをすればだいたい見えた。

西村....西村......西村ぁ~.....


あった!!

「.......D組ね」

いろんな看板を辿り、着いた教室

────ガラッ

教室の前に貼ってあった座席表を頭に叩き込み自分の席を探す。

まだ数人しか揃っていない教室で
私は自分の席に座った。

真ん中の列の、一番後ろ。

びみょ~~~~~~~~~.....笑

一番後ろって、友達出来にくそう。

それもつかの間。
隣の席に座って顔を机に伏せていた
男の子がバッと顔を上げた。

私の椅子を引く音、うるさかったかな?


..........................

「......................................................」


その男の子は私のことをジーッと見つめる。
私も、何だ。と思い彼を見つめる。

黒くてサラサラで少し毛先を遊ばせている髪の毛に、耳に光る片方のピアス
(もう片方は髪の毛で見えないだけ?)
男子にしては白い肌に二重の目。

綺麗な顔だな~

そんなことを思って数分
彼が沈黙を破った。

「ギャルなの?ねえ」


何を、言い出すかと思ったら。


「なわけないよ。」

「だよね??良かった!
じゃあ、よろしく!俺の名前、橘絢人(タチバナ アヤト)!」

彼はそんな風に気軽に喋った。
気さくな人だなぁ~

「たちばな?うん、よろしくね
私は西村梨心」

「じゃあ梨心ってよんでいい?
俺の事は絢人って呼んで」


「うん、わかった!絢人ね」

────ガラッ

挨拶をしていると部屋に男の先生が入ってきた。
「移動するぞ~
廊下に適当に並べ~」

みんな一斉に席を立つ。

絢人.....デカッ..........!!!
軽く180センチはありそう。
改めて彼を見ると
かなり整った容姿をしてるんだなあと気づく。
(彼がこの学年で1位を争うほどのイケメンだということは、この時はまだ知る由もなかった....!)

「いこーぜー梨心」

「お、おん」

「え、どーした?タジタジしてるけど」

「いやあ.....絢人くんデカイね....」
あまりの容姿に
何故か君付けになってしまう。

「絢人くん成長期だかんね~」

「ヤンキーなの?ねえ」

そう聞いてみた。

「はあ?俺のどこがヤンキーよ!」

絢人はオネエ口調でそう言ったので
途端に私は笑ってしまった。

「ははっ、面白い、絢人!」

そんな会話をしていると
数人の生徒に視線を食らってしまった。

ヒィ.....


その後体育館に移動し、無事入学式が終わり、また教室へ戻った。

席に座り改めて教室を見渡す。

あれ...髪の毛染めてんの私だけ?
入学式ではチラホラ見かけたけど
私の教室に茶髪は私1人。

あちゃ~....完全に浮いちゃったかもっ。

「やっぱギャルなの?ねえ」

絢人だ。

「ギャルだったら、どうするの?」

「絡まないよ。」

至って真面目に、絢人はそう言った。

「あたしがギャルだったら?
声かけたのに、やっぱやめたってなるの?」

「まあ、本当ギャルだったら、
声かけないけどね。
俺こう見えて結構、見る目あるんだわ」

そうドヤ顔で言った。
なんでギャルと絡まないのかは
よくわからないけどっ。

「梨心はなんか、違う気がするよ。」

私が何かを答える前に、絢人はそう言った。それがどんな意味かは全くわからなかったけど、
これからもっと仲良くなれればいいなって思えた。

入学式も終わり、確認事項や自己紹介も終わり、HRも終え、みんながそろぞろと教室から出ていく。

私も帰ろう。早く帰って
明日のテストの勉強しなきゃ......

そう、明日は新入生テスト
この学校では恒例の行事らしい。

教室を出て、テストのことを考えながら階段へ向う廊下の角を曲がった時

────ドンッ

「す、すみません......前見てな.....」

「ごめん大丈夫か?」


────────────


目の前にはスーツを少しゆるく着て
首から名札を下げている男の人。
先生だ
名前は「橋本なんちゃら」
よく見えなかった。

「────ぶ?おーい 大丈夫か?」

ハッ!!!

「だ、大丈夫です!......っ」

ぶつかった勢いでコケてしまった私は起き上がろうとしてもなかなか立てない。
やば.....こんな時に....

足くじいちゃったかも.......。

スッ

突然私の目の前に先生の顔が。
きっと私がなかなか立たないから心配して、しゃがんだんだろう。

「足、くじいたか?ほんまごめん
保健室、行こか。」

どき、どき。

橋本先生は心配した顔で私の顔を覗く。

保健室.....行かなきゃ....

「保健室......どこですか....?」

生徒のほとんどがもう帰ってしまい
廊下には先生と私だけ。
やばい、足痛いかも......。

すると先生は私の腕を掴んで私を立たせてくれた。
そしてその瞬間

────────!???!!

「............っ!?えっ、ちょっと...っ!」

橋本先生は軽々と私を持ち上げた。

いわゆるお姫様抱っこってやつ。

「いや、先生大丈夫です!歩きます!」

「大人しくしときぃ、怪我人なんやから。」

........そんな....恥ずかしすぎる。。
何なんだこれは....!!!!

まもなくして保健室にたどり着いた。
案の定他の生徒に見られるほどの距離もなく、無事保健室へついたのだが...。

「すいません...重たいのに.....」

「軽いわ。ちゃんと飯食ってるんかよ?
ん~、で、新入生?だよな~あの校舎にいたってことは。入学式そうそう、悪いことしたわ。どのへんが痛い?あ~、右足か、さっき抑えてたもんな、うん。今から治したるからな。」

私が答える間もなく先生はベラベラとしゃべり続ける。

関西弁......。
先生はガラスの棚を開け
なれた手つきでスプレーと湿布を出した。

「保健室の先生なんですか?」

「そうやで。」

なるほど...だから慣れてるのか。

そうして手早く湿布を貼ってくれて、痛みがさっきより減った気がする。

「先生、ありがとうございます
すみません本当に!」

そう言って勢いよく立ってしまったからなのか
.........っ!!!いたっ....!!!

「おい!....危なっかしいやつやな~、気をつけな。まだ治ったわけちゃうんやで????」

.......近い.......近い!!

ドキ、ドキ。

ふらついてまたコケそうになった私を先生が咄嗟に抱き寄せたのだ。



「ごめんなさい何度も...ほんと...」

私はただ謝り、恥ずかしさのあまり下を向く。

上を向いたらすぐそこに、先生の顔があるんだもん、見ることができない。

..........離れなきゃ...。

パッ.....

離れようとした瞬間
先生が私の体を遠のけた。

「ごめんごめん、つい。大丈夫か?ほんまに。
家まで送ったろうか???」


「っ!!大丈夫です!ほんとに!!
迷惑かけるわけにはいかないので!!
では!!失礼しましゅ!!!」

.......噛んだァ!!!!
盛大に噛んだァ!!!!!
そして私は足を怪我していることさえ忘れ保健室からダッシュで出て
家までダッシュで帰った。

この時間は奈津子さんは仕事に出ていて
家にいないので鍵を開け自分の部屋へ入る。

────ハア、ハア。

────ドキ、ドキ。

走ったからか、先生に抱き寄せられたからなのかドキドキが止まらない。
いや、これは完全に走ったからでしょ。
自分に言い聞かせ考える。

考えるのは、橋本先生のこと。

「......案外イケメンだったかも....」

橋本先生は多分関西出身の人なんだ。
何歳なんだろう、多分若い。
身長は...絢人より高いかな?
185はあるかも。包容力バツグンだった。
って、何考えてるんだ!!
にしても手ぇおっきかったな.....

中学校が実は女子高だったことから
私を育ててくれた良孝さん以外で、
ほぼ男性と関わったことがなかった私は
絢人という友達が出来たことでさえ奇跡に感じていたのに、
ましてや男の先生にお姫様抱っこされるなんて、思ってもみなかった。

考えれば考えるほど赤面していくのが分かる。

アッシュ色の長い前髪から覗く綺麗な目。一重だけどスーッとしていて
目の色は少し色素が薄い感じ
鼻筋も通っていて口も綺麗だった。

あんなかっこいい保健医がいるのか、と。

でもなんで、1年生の校舎にいたんだろう。