私の好きな人は先生で、絢人ではないけれど。
でも彼は少なからず、私の中では大切な存在になっていった。
まだ2ヵ月ほどしか経ってない高校生活で、私を支えてくれているのは確実に絢人だ。
絢人は気さくな性格(多分)なのに、
見た目が怖いせいか、未だにクラスメイトにもビビられているようだった。
ピアス外して目つき変えてポケットから手を出せば多分爽やかイケメンなのに。
ほんとは綺麗な二重してるくせに勿体ない。
「俺のひよこが.......俺のひよこが....!」
普段はこんな発言ばっかりだし。
「ひよこ死んじゃったー?」
「.....うそだろ.....ニワトリになったんだけど....キモすぎだろこれ....」
.......そっちかーい。
「何の可愛げもねえよ。トサカ立派すぎんだろ引くレベル......」
「ひよこ育成ゲームにそこまで感情移入してる絢人が引くレベルだよ。」
そんなたわいもない会話をしていた昼休み。
たまたま廊下に視線を移した時だった。
────────────
先生....!
やっと見つけた!!!!
「ちょっと絢人、用事思い出した。」
「いや待って、このニワトリどうすればいいの?!」
はぁ??どうでもいいよそんなこと。
「出荷すればいんじゃない??」
返事をしたものの、そんな機能があるのかさえ分からなくて。
「あ、そうだ出荷すればいいんだ。」
.....あるんかーい。
って、それどころじゃない!
「ちょっと行ってくるね。」
絢人の返事を待つことなく教室から廊下に出た。
そこには先生の姿はもうなくて。
....どこ、行ったんだろう。
早歩きで階段の方へ進む。
階段を降りてちょうど角を曲がった時
────ドンッ
......いったぁ.....ちょっともう
こんな時に........
「あ。」
.......................え?
この声..........
「せんせ?」
なんとぶつかった相手はまさかの橋本先生。
「ごめんごめん、前見てへんかったわ!そう言えば随分久しぶりやな」
「お...久しぶり、です...?」
私は尻餅をついた状態で先生を見上げる。
先生は腰をかがめて私に手を差し出す。
つかまれって合図なの?
私はその手によって立ち上がり
つかさず口を開いた。
「探してました。」
少しの沈黙を置いて、先生は
「デジャヴやなぁ、いろいろと。」
そう言って微笑んだ。
────キュン
反則。その笑顔。
「じゃあお仕置きで手当てしてください」
特にどこも怪我をしていないけど
保健室に行くにはこんなことを言うしかない。
だって、お話がしたいんだもん。
少しくらい、先生といたいじゃん?
「なんやー、保健室行きたいだけちゃうんか?」
そう言いながらも保健室の方向へ歩く先生。
なんだかんだ言ってちょー優しいんだもん。
ガチャ、ガララ────────
「やたっ」
小さくガッツポーズをして見せる。
相変わらず先生は鍵をかけて
電気はつけない。
「ほんとに生徒が来るの嫌なんだ...」
「んーーー、せやなあ。」
先生はコーヒーメーカーの方へ歩きながら至って真面目にそう言った。
「私に合鍵ちょーだい」
「せやなあ。ははっ」
「冗談ですよ冗談っ。合鍵なんてないでしょーほんとは」
「ないなあ。ははっ。でも俺を見つけたら保健室開けたるよ、電気はつけんけどな。」
「でも先生どこにもいないよ?」
ほんと、私毎日キョロキョロしてるんだから。
「せやな、せんせー自由人やからな。」
まーたそうやって笑う。
「せんせ、好きです。」
真顔でこんな事言うのも可笑しいのだろうけど、でもやっぱり伝えたかった。
また笑われるって分かってるけど。
「寝言は寝て言えって言うやん?
コーヒー飲んだら眠なった!ちょっくら寝るから留守番しとってな?梨心ちゃん」
は???何言い出すの....??
「いやそもそもコーヒーって眠気覚ますものだよ!って、え?なんで私の名ま...」
────スー.....スー......
落ちるの早い..............。
先生は保健室のベッドに寝転がるやいなや瞬間的に眠りについた。
光ファイバー並の早さだよ。
スースー言ってるし.....可愛いんだけど。
ベッドのそばまで行き、近くにあった椅子に座る。
先生の寝顔なんて、ちょーレアだよ?
こんなの私が初めて見たんじゃない?
「せんせー.....?」
................スー......スー......
長い前髪が横に流れて
綺麗な目があらわになる。
────チュッ
私は無意識に、先生のまぶたにキスをしてしまっていた。
.......................何やってんだ私。
────キーンコーンカーンコーン
その時予鈴が鳴った。
保健室は音を切ってあるのか、廊下で鳴る音だけが響いた。
