屋上での一件から約一ヶ月が経った。
保健室は相変わらず鍵がかかっていて、当然橋本先生もいない。
先生は基本、校内をうろついてるか
鍵のしまった保健室で寝ているか。
だから先生に会いたいと思っても
当然すぐに会えるわけなくて、校内をぐるぐる探し回っても、会える確率は10%くらい。
そしてそして、絢人はというと......。
うーん。これがなんだかおかしなことに。
あの突然の告白以来、2人の間に妙な雰囲気が漂っている。
絢人から告白してきて、それはないでしょ!って感じ。
日常の半分は避けられてるって感じなんだけど.....これに関しては、私にはどうしようもできない事実で。
クラスに友達が誰1人いない私も絢人も、ほぼ孤立状態だ。
こんな状態がずっと続くと考えるだけでゾッとする。
そしてもう1人。2年生の校舎で強制的に連絡先を交換させられた寛也先輩。
彼は......たまーに見かけることがあるがやっぱりいつも違う女を連れて歩いてる。完全にプレーボーイだよ。
何日か経って先輩から来たLINEは
【りっこちゃーん♪おはよ♪】
とかそんなくだらない内容ばっかりで
私は後輩として失礼がないように
必要最低限の言葉で返事をしているって感じだ。
そんなこんなで1週間後は中間テスト。
最近絢人は授業をよくサボっていて、教室にいる時はだいたい朝とお昼だけ。
学校に弁当食べに来てるのかってくらい。
はぁ~あ~。今日もつまんないな~。
毎日同じことの繰り返し。
刺激がなくてちょっと沈んでたんだ。
その日の学校帰り、たまたま駅の近くを歩いていたら知らない男の人たちに声をかけられた。
「あれ??桜ヶ丘の子じゃね~??」
「えっ、めっちゃ可愛いんだけどっ」
「ねえひとりなの??遊ぼーよー」
.......................だーれ?
ってか、これってもしかしてナンパ?
「えっと....................」
返事に戸惑っていると男のひとりが強引に私の手を引いた。
えっ、ちょ。
「遊ぼ?いーっしょ?ちょっとだけだよー!」
待って、やばい、これ危ないヤツじゃないの?
「いや、あのっ、いいです大丈夫ですっ」
必死に手をほどこうとするが男の力に勝てるはずもなく。
「暴れんなって~!カラオケでもいかねー??楽しく歌おーよぉ~♪♪」
目の前にあるカラオケ屋さんの入口付近まで引っ張られた時
────パシッ
急につかまれていた手が自由になった。
何事かと思い後ろを見るとそこには眉間にシワを寄せた絢人が立っていた。
「俺の彼女になにしてんの?」
今までに聞いたことのないくらい、
低い声で、絢人はそう言った。
「あ...やと....?」
「何してんだよおめえら、用済みならさっさと帰れよ」
明らかに怒ってる......。
「.......あ?なんだてめえ」
さっきまで私の手を引っ張っていた男が逆上する。
もう.....なにこれやめてよ....。
まさか喧嘩とかになったりしないよね?
もし殴り合いにでもなったら....
絢人は謹慎になっちゃうかもしれない。
ましてや2回目だなんて、
1回目の時の1週間の自宅謹慎、なんかじゃ済まないかもしれない。
「すみません!ほんとごめんなさい!
絢人っ、もう行こ?ねっ」
絢人が手を出す前に男たちに謝って無理矢理絢人の手を引っ張る。
なんで私が謝ったかなんて、わからないけど。
「ッチ。....他当たるぜ~.....」
男たちはつばを吐いてその場をあとにした。
「絢人....こんなと 「こんなとこで何してんのはこっちのセリフだよ」
私が言い終わる前に絢人が口を開いた。
その表情はさっきの怒りに満ちた顔とは違って、少し心配そうな顔をしていた。
「いや....特に何もないけど....適当にフラフラっと。」
「適当にって.....もし俺がいなかったらお前どうなってたんだよ、マジで。感謝しろよな?」
絢人は心配そうにそう言って、私の頭をコツンとたたいた。
「はあー?誰も頼んでません~。てか、絢人だって私のお陰で喧嘩にならなくてよかったんじゃん。もしかしたら1ヵ月自宅謹慎とかになってたかもしれ....」
────ドサッ
突然絢人に腕を引っ張られ視界が真っ暗になった。
.....絢人に抱きしめられた、んだ。
「ちょ......」
「悪ぃ。ほんとに心配だった。ごめんな。」
絢人はそう言って謝った。
その"ごめんな"は多分今日のことだけじゃないんだと、私は思った。
ここ1ヶ月間、ほっといてごめんな。
私にはそう聞こえた。
嬉しかった。本当にそんな意味かどうかなんてしらない。
私の勘違いでもいいけど、嬉しかったんだ。
元に戻れるって、そう思えた。
「寂しかったんだよ馬鹿」
それが精一杯の私の言葉だった。
涙が溢れて止まらない。
あー、やっぱり弱くなった。
泣き虫になっちゃったなぁ。
「ごめんなー、梨心。ごめんな。」
絢人の胸で泣き続ける私を
ただひたすら謝りながら頭を撫でてくれた。
