────チュンチュン

鳴り響く目覚まし時計の音

「・・・ふぁ~」

時計の針は7時を指す。
今日は4月7日。高校の入学式です。

そう、私、西村梨心(ニシムラ リコ)は
今日から念願の高校1年生

勢いよくベッドから起き上がり
洗面台に直行。
顔を両手でパンパンと叩き気合を入れる。

────今日からは、

・・・新しい自分なんだ。

顔を洗い部屋に戻る。

ダークブラウンの髪の毛をコテでミックス巻きにし、ナチュラルメイクを施しリビングへ向かう。

「あら、気合入ってるじゃない!」

「おはようございますおばさん!」

おばさん?お母さんじゃないの?
そう思うのもおかしくない。

そう、私には両親がいない。
私が9歳の時、母が事故死して、
まもなく父も私を捨てて家を出た。

母が死んだ時、私は涙を流さなかった
本当はとても辛くて苦しくて
息をするのが精一杯だったのに。

そんな私を見て、お葬式に来ていた親族の人は、私を悪く思った。

母が死ぬ前から父にはアイジンがいて
私はそのアイジンに嫌われていた。
だから、父も私の存在をよく思っていなかったと思う。

お葬式で周りの人になんて思われようが、どんな視線を送られようが
そんなこと、どうでもよかった。

母の死別に、私は怒りさえ覚えた。
まだ9歳だった私の
心を奪ったのは父だった。

母は父の浮気を知っていたのだ。
そのことで頭を抱えていた母を私は何度も見ている。

......辛かった。私の大好きな、お母さんとお父さんが、そんな風になっているのを、ただ何も出来ずに眺めるのは、息苦しかった。
母はそれ以上に、苦しかったんだと思う。
私が想像しているより遥かに、母は追い詰められていたことを知らなかった。


母はそのせいで、交差点へ飛び出した。

────即死

病院でその言葉を聞き

だいたいのことは頭に入った。
父のせいだ、としか思わなかった。


母は事故死と見せかけて、自殺した。

そんな事実を誰も知るわけがなく
ましてや自殺した、というのは
私の憶測かもしれない。

でもあの時、
私の目の前で交差点へ飛び出していったのだから、確実に事故、ではないだろう。

それからの事、私は親戚の家を転々とした。
誰も私を可愛がることもなく
私も誰かに、懐こうとはしなかった。

そんな時たまたま母の遺品が入った箱を出した。私の宝物だった。
お葬式の時に父に渡されて
それっきり開けたこともなかった箱。

────パカッ

そこには"梨心へ"と書かれた一通の手紙が。

「.....おかあさん?」

その手紙には

"ごめんね、梨心。

守ってやれなくて、ごめんね。"

そう書いてあった。

私はその時、初めて涙を流した。
何かが私の中でプツンと切れた。
声を押し殺して泣いた。
.............つらくてつらくて、息苦しくて。
でも必死で我慢してきたんだ。

その下には
電話番号と住所が書いてあり、

最後に"頑張ってね"と一言添えられていた。

母からの最後の一言が

頑張ってね だった。


この電話番号が誰のものなのか
私はわからなかった。
でも私はその番号に淡い期待を抱いた。
私は交番に行き電話をかりた。

────プルルル プルルル

3回ほどコールがなかったあと、
優しい女性の声が聞こえてきた。

「はーいもしもし~?」

.......................

電話を切ろうと思った。
誰かわからないし、今更怖くなった。

────頑張ってね

その時、母からのその言葉を思い出し、私は震える手を抑え、口を動かした。

「.....にしむら.....れい..こ......おかあさん...おかあさんのなまえ.....」

それが精一杯の言葉だった。

その後少しの間があき、
何かを思い出したように声が聞こえてきた。

「りこちゃんなのね!?!!!」


それがおばさんと、私の出会い。