カラカラカラ。


自転車が車輪の音を立てて進む。



ぶわぁ。


桜の木が風になびいて音を立てて揺れる。



今日は新学期はじめの日。
りさはいつもとは違って心が弾んでいた。
そう。高校生活で重要な鍵となる
『クラス替え』があるからだ。


校門が見えてくる。
学校まで後、少し。

もう少しだし、疲れたし、
歩いていこう。
そう思ってりさは自転車を押して歩き始めた。
ふっ。と足を止めて見上げる。
満開の桜の木はなんて美しいのだろう。

春の風の匂い。

すぅ。とりさは深呼吸する。
あ、春の匂い。
なんとも言い表せない、
でもなんとなくわかるような季節の匂い。
りさは春の匂いが1番好きだった。
心が弾むような、優しい気持ちになれるような、
春の匂い。
よし、新しい友達できますように。
春の風に乗せてそっと祈った。



「りさー!」

大声で校門から呼ばれる。
親友のみう。中学校からずっと一緒。
みうの満面の笑みにつられ、
駆け足でみうのもとへよる。

「クラス替え、どーだった!?」

息が切れながらも伝える。

「今年も一緒!よろしくね、りさ!!」

みうも結構興奮しているようだ。
みうと一緒なんて聞いたら
もうウキウキしてたまらないよっ
と心の中でつぶやく。


「てかね、転校生いるらしーよ!
イケメン!!!男子!!!」

へぇ、とりさはさほど関心のないように頷く。
りさはいままで色気のない友達との
生活を満喫してきた。今更
イケメンだのどうだのあまり興味がないのだ。

「りさもさぁ、せっかく可愛いんだから
彼氏くらい作りなよねぇ、
モテるんだからさぁ。」

と、みうが呆れ気味に言う。

「いいの、みうがいればじゅーぶん。」

新しい友達ができますようにというお願いは
どこえやら。



ガラガラ。


新しい教室の扉を開ける。

去年とさほど変わりのないメンバーで
ほっとする。
どんだけ内気なの。あたし。
こんなんだったっけか。
と少し不安になったが
そんなのすぐになくなった。

なぜなら目の前に見たこともないような
顔の整った、それでいてしゅっとしていて
高身長で、いわゆる
【イケメン】
がたっていたからである。
リサの方にふっと振り向き、

「なぁ、俺の席ってどこ?」

んなの、来たばっかりじゃ、
わかるわけないでしょう
なんて内心思いながらえっと…
と探すと

「あっ、一緒に探す。」

なんて言い出す。
変なヤツ。


案の定、席は隣だった。
席が一番後ろっていうのが
唯一の救い?

「なぁ、なぁ、
あとで紹介されるけど俺、
坂口悠。よろしくな」

突然の声がけと自己紹介で
戸惑う。
あわあわしていると

「自己紹介、自己紹介」

と促された。

「えっとー、
あたし、佐倉理沙。
よろしくね、」

ちょっと噛みそうになったけど
なんとかセーフ。

「りさ!よろしく。
さくらって名字、似合ってんじゃん?」

「え?なんで?」

「朝、立ち止まって桜見てたでしょ。
それ、すっごく絵になってたから。」

なんてこの人は褒めるのがうまいんだろう。
と思った。
よく恥ずかしくもなく、照れもせず
面と向かって言えるなぁ。
なんて思ってたら坂口悠とやらの
綺麗な手がふわっと頭に
乗った。

「っえっ!?」

あまりにも突然の出来事に困惑する。
なにやら何かをとろうとしてる?

「取れたっ!」

柔らかく手を広げられ、手の中を見ると

「桜の花びら?」

「多分、さっき見てた時についたんだ。
ちょっと前から気になってた。」

恥ずかしかった。
けど嬉しくもあった。

「…ありがとう。」

照れ隠しのように発したその言葉は
春の風に乗ってふわりと
香り出した。

Fin.