わざと耳元で囁くように言ってやった。


意味をわかってんのかは微妙だけど、ドキドキすればいい。


そんで、俺を好きになれ。


今まで雨はすっげー嫌いだったけど、菜都と話すきっかけをくれた雨に今では感謝してる。


なぁ……俺のこと、好きになれよ。


いつも真っ赤な顔してんじゃねーかよ。


映画の時だって、俺の手をギュッと握り返してくれただろ?


んなことされたら、期待しちまうだろーが。


俺のことが好きなんじゃねーかって。


ちょっと湿った菜都の髪の毛から、甘いシャンプーの匂いがする。


やべー、マジで。


「矢沢君……寒くない?」


「俺は大丈夫だけど」


見ると菜都の体が小さく震えていた。


まぁ、寒いよな。


濡れたし。


うさぎみたいに震える菜都を見てたら、体が勝手に動いていた。


細い肩を引き寄せて、腕の中に抱きすくめる。


さっきよりも間近に感じる菜都の温もり。


唇が耳に触れそうなほどすれすれの位置だ。


「や、矢沢君……あ、あの」


「寒いのかと思って」


「いや……あの、うん。寒いんだけど……こういうことされたら、恥ずかしいよ」


「ふーん……恥ずかしいんだ?」


ヤバいと思った。


これ以上はダメだ。


耐えろ、俺。