「だ、大丈夫。病院で点滴してもらったから。わざわざありがとう」


「そっか。ならよかった」


ぎこちなく笑ってみせると、矢沢君はホッと息をついた。


後夜祭以来だからもっと気まずくなるかと思ったのに、意外と普通に話せていることに驚きを隠せない。


「傘、持ってねーんだ?」


矢沢君は頬を掻きながら、あたしの目を見てフッと笑った。


「あ……うん。天気予報見てなかったから」


「送ってく」


「え……?」


「家、こっから近いだろ?だから、送ってく」


「…………」


「行くぞ」


戸惑っていると、矢沢君に腕を掴まれて引っ張られた。


2人で相合い傘をした帰り道。


肩が触れるたびに顔が熱くて仕方なかった。


「なんかあった?」


ザーッと雨が降り注ぐ中、黒い傘の下で矢沢君が視線を向けてくる。


「目、腫れてるから。泣いたんじゃねーの?」


「な、泣いてないよ。疲れてるから腫れてるだけだと思う」


「ホントかよ?」


「……うん」


目を見て答えられなかった。


矢沢君の瞳はまっすぐ過ぎて、ウソがつけなくなる。


すべて見透かされていそうで怖い。


それにね。


その目に見つめられると、全部をさらけ出してしまいたくなるから。