「ってのは、口実で。ホントは春田と話したかったから来たんだ」


「え……」


あたしと……話したかったから?


照れくさそうに頭を掻く矢沢君。


そんな仕草にドキッとしてしまう。


好きだから……大好きだから。


あたしには時間がないから、自分の気持ちに正直に生きなきゃ後悔する。


人生、後悔のないように生きなきゃいけない。


それは、どこかで聞いたことがあるようなありきたりな言葉。


だけど後悔のない人生を歩むことが出来た人なんて、この世に存在するのかな。


いるとしたら教えてほしい。


どうやったらそんな風に生きられるのかを。


矢沢君が好き……。


でも、知りたくなかった。


気付きたくなかった。


だって、あたしには……どうすることも出来ないんだから。


「春田?」


「え……?」


「渡り廊下にいる時、春田が深刻そうな顔でこっちを見てたから気になったんだ」


「あたし、そんな変な顔してた……?」


「変なっつーか、泣きそうな顔してたから……告白現場、見てたんだろ?」


「…………」


「あの先輩とは何もないから。つーか……きっぱり振ったし」


矢沢君は今度は小さく頬を掻いて、軽く目を伏せた。


「それで泣きそうになってたんじゃねーの?」


「え……いや、あのっ……」