海生の前だけでは悲しい顔を見せちゃいけない。


強いお姉ちゃんでいなきゃ。


「菜都……海生」


「お、父さん……」


いつからいたんだろう。


お父さんの目も潤んでいた。


あたしのせいで、2人が悲しんでいる。


大好きな家族を苦しませたくない。


あたし、これからどうすればいい……?


先の見えない迷路にはまったみたいだよ……。


「菜都……治療を受けに病院へ行こう。あの先生は有名な先生だから、きっと大丈夫だ……菜都は大丈夫」


「……っ」


大丈夫……あたしはきっと、大丈夫。


「菜都……俺も、病院に付き添うから」


生きたい。


この先、もっともっと。


長く生きていたい。


だから、治療を受ける。


ほんの少しの希望を持って頑張れば、きっと大丈夫。


あたしは……助かる、よね?



゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。



「……ちゃん!」


「ん……っ」


苦しい……ものすごく。


悲しい……切ないくらい。


「なっ……ちゃん!」


「んんっ……」


ーーハッ!


「や、矢沢、先生……?」


「ああ、そうだ。ここは病院だ」


「びょ、病院……?」


あれ……?


なんで?


あたし、保健室で寝てたはずだよね……?


いつ病院に来たの?


「菜都……大丈夫か?学校から連絡もらって、心配になって病院に運んだんだ」


矢沢先生の隣で心配そうに眉を下げるお父さんの目は真っ赤だった。


最近、お父さんの泣き顔しか見ていないような気がする。


お父さん……泣かないで。


「おとう、さん……あたしは、大丈夫、だから。泣か、ないで……」


思いの外弱っているのか、かすれた声しか出ない。


口元には酸素マスクが付けられていて、話しにくいったらないよ。


あはは、これじゃ重症患者みたい。


って、重症患者か……。


手に力を入れてみると、指先が軽く動いた。


よかった……。


あたし、まだ大丈夫みたい。