菜都がアメリカに発ち、手術を受けた日から6年が経った。


早咲きの桜が門出を祝うかのように、構内一面を取り囲んでいる。


ここにくるのも今日が最後か。


そう考えると少し寂しいような気もする。


この4年間、よくここまで頑張ったよな。


生きてきた人生の中で、こんなに一生懸命になったことはきっと他にない。


「あ、あの……っ!」


桜吹雪が舞う中庭でたそがれていると、袴姿の知らない女が駆け寄ってくるのが見えた。


「ちょっとだけ、いいかな?」


息を切らしながら、どこか緊張した面持ちで俺の顔を見つめる。


メイクが崩れているのは、きっと泣いたんだろう。


目が真っ赤だった。


「なに?」


「あ、えっと……。わたし、2年の時からずっと矢沢くんのことが好きだったんです……っ!彼女がいるって知ってるので、付き合いたいとは思ってなくて。さ、最後の思い出に、一緒に写メを撮ってほしいんです……っ!」


よっぽど緊張しているのか声が震えている。


さらには顔も耳も真っ赤で、少しだけ菜都に似ているなと思った。