「あーきと、待てよ」


タタタッと軽快な足音が背後から聞こえたと同時に、勢いよく肩に腕をまわされた。


そして俺の顔を覗き込み、ヘラッと笑う。


いつものごとく、馴れ馴れしい奴だ。


「なんだよ、いきなり」


「一緒に帰ろうぜ」


迷惑顔を見せる俺のことなんて気にもせずに、陽真は楽しそうに笑っている。


「俺、行くとこあるから」


肩にまわされた腕を払い、昇降口に向かって歩く。


「どこ?俺も付き合うよ」


「どこだっていいだろ。ついてくんな」


本当は行くとこなんてないけど、ひとりになりたくて適当にあしらう。


「相変わらず冷たいなぁ。優しいのは、なっちゃんに対してだけかよ」


唇を尖らせてボヤく陽真をスルーして足速に進んだ。


昇降口に着くと、開け放たれた正面玄関のドアから早春の冷たい風が肌をかすめる。


春はもうすぐそこだというのに、凍えそうなほど寒い。


3月下旬、明日から春休みを迎える。


菜都がアメリカに発ってから、1ヶ月半が経とうとしていた。