「子どもだよ」


あたしたちはいつまでも、お父さんの子ども。


なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのって何度も思ったけど、お父さんとお母さんの子どもに生まれてこられてよかったって今なら思える。


お母さんは小さい頃に亡くなったけど、温かくてとても優しい陽だまりみたいな笑顔が素敵な人だった。


あたしの大好きな自慢の家族。


「あたし、生まれてきてよかった。お父さんとお母さん、海生に出会えて幸せだった。それと……お願いがあるの。あたしがどうなっても、晶斗には連絡しないで」


出発は明日。


もう最後かもしれないっていう気持ちが、無意識に頭のどこかにあったんだと思う。


不意に涙があふれた。


でも、必死に歯を食いしばって耐える。


ここで泣いたら、最後だっていうことを認めるみたいで嫌だ。


「どうしたんだ、急に。連絡しないでほしいって、なんで」


「待たなくていいって言ったの……あたしが助かったって知ったら、晶斗はきっと待つと思うから。晶斗には幸せになってほしいの」


もし手術が成功して、なんの後遺症も残らずに自分の足で歩くことができたその時にはーー。


あたしから会いに行く。


だから、その時まで晶斗には何も言わないでほしい。


そっと涙を拭った。


たった10%の低い確率。


信じていないわけじゃ、ないんだよ……?


きっとお父さんには、ううん海生にもあたしの涙はバレバレだった。


だけどあえてなにも言わないでいてくれた。


「わかったよ。菜都の言う通りにする。離れてても、俺ら家族はいつも一緒だからな。マジで……遠くから祈ってる」


心なしか、海生の目も真っ赤だった。


だけどその目はとてもまっすぐで、本心で言ってくれていることがわかる。


ありがとう。


迷惑ばかりかけてしまったけど、ツラい時に2人が支えてくれたから乗り越えられた。


思えばあたしは、たくさんの人に支えられて生きてきたんだね。