「なっちゃん、調子はどう?」


朝、矢沢先生は必ず病室を訪れる。


優しく微笑んでいる顔は晶斗にそっくりで、なぜかホッとさせられるんだ。


「顔色はいいみたいだな」


「調子いい、かな。今日は起き上がることができるから」


いつもはめまいがするのに、今日はそれがない。


「それはすごいな」


「えへへ」


頑張るって決めたから、もうくよくよするのはやめる。


少しでも可能性があるなら、未来を信じてみたい。


本当はすごく怖いけど、奇跡を、可能性を信じてみたい。


諦めたらそこで終わりだって教えてくれた、キミのために。


だからどんな時でも笑っていようって思った。


あたしの笑顔が好きだと言ってくれた晶斗のために、あたしのために泣いてくれた晶斗のために……。


あたしができることは、笑うことくらいしかないから。


何にも負けないくらい強くなりたい。


「前に詳しく説明した通り、治療が長引けば何年も帰ってこられないかもしれない。脳を触ることで、一生寝たきりの生活になるかもしれない」


矢沢先生はあたしの覚悟を再確認するように、真剣な眼差しを向けてきた。


「大丈夫です」


同じように真剣に返す。


もう迷わない。


「出発は1週間後に決まったよ」


揺るがない覚悟を目の当たりにした先生は、フッと頬をゆるめた。


「出発までに体調管理に気をつけないとな。飛行機に乗れなかったら、元も子もないだろう?」


「うん、頑張る」


あたしは、アメリカにある最先端の医療技術を持つ病院で手術することになった。


全世界でも症例の少ない手術で、なおかつ日本ではまだ取り入れられていない。


成功率が高いとは言えない困難な手術。