「や、矢沢君……!」


次の日の朝、昇降口で履き替えていると背後から遠慮がちな声が聞こえた。


振り返るとそこには、小さく縮こまってモジモジしている春田の姿。


透明感溢れる色白の肌と、ほんのりピンク色に染まる頬。


シュシュでハーフアップにしたストレートの黒髪が、風に吹かれて揺れている。


ーードキッ


って、なにいちいち反応してんだよ。


落ち着け、心臓。


「お、おはよう。あの、この前は……ごめんね」


春田は申し訳なさそうに眉を下げながら、言いにくそうに口を開いた。


クリクリの目が不安気に揺れている。


なんで……そんな顔をするんだよ。


いつもみたいに笑えって。


「もう大丈夫なんだろ?」


「え……?あ、うん」


「なら、もういいから。あー、弟に借りた着替え洗濯して返すから。傘も……今日は持って来てねー。悪い」


「ううん……!そんなの全然いつでもいいから!ホントにごめんね。あの日はすごく助かった。ありがとう」


ホッとしたのか、春田の口元が優しくゆるむ。


キュッと一文字に結んでいた唇が柔らかく弧を描いて、いつもの笑顔に変わった。


なんでだよ。


昨日とは打って変わって気持ちが弾んでるのは。


春田に会えて、嬉しいとか思ってる俺がいる。


意味、わかんねーし。


「それと、傘も……あんなハート柄の傘、恥ずかしかったでしょ?ごめんね」


「別に……恥ずかしくねーよ」


春田に見つめられるのが耐えられなくて、赤くなったのがバレないようにプイとそっぽを向いた。


なに動揺してんだよ、俺。


マジ、意味わかんねー。