「どれにするんだ?」
「え?」
隣からじっと顔を覗き込まれてハッとした。
わ、やばっ。
ぼんやりしちゃってた!
「あ、えっと……」
目の前では愛想良くニコッと微笑む店員さん。
辺りには甘い匂いが漂っていて、あたしたちの後ろには行列が出来ている。
ここは駅前にある小さなクレープ屋さん。
甘さ控えめなここのクレープが大好きなあたしは、たまに花純と訪れたりもするお気に入りのお店。
「えーっと……あの」
メニュー表に目をやりながら、しどろもどろになる。
早く選ばなきゃ。
「イチゴカスタードミルフィーユクレープでお願いします!」
焦って思わず大きな声が出てしまった。
ビックリしたように目を見開く店員さんと、隣でクスクス笑う矢沢君。
うわー、恥ずかしい。
「かしこまりました。それではしばらくお待ちくださいね」
サラッと流してくれた店員さんにホッとしつつ、誘導に従って少し横にずれてクレープが焼き上がるのを待った。
その間に金額を告げられお会計をすることに。
財布からお金を出そうとすると、矢沢君がすかさずポケットから千円札を取り出した。
そして、「一緒でお願いします」と言いながら支払いを済ませる。
「や、矢沢君、お金」
「いらねーよ」
「え、なんで?っていうか、矢沢君飲み物しか頼んでないよね?」
「俺、甘い物苦手だから」
「え、そうなの?言ってくれたら他の食べ物にしたのに」
「いいって。腹減ってないし」
「で、でも……それなら、なおさらお金受け取ってくれなきゃ困るよ」



