「え、なにしてんの。大丈夫?」
頭上から男の声がした。
ここは路地をだいぶ入ったところにあるお店。
周りに人はいないし、私に話しかけている事は確実だ。
店の前で泣きながらしゃがみ込んでる不審者がいたらほとんどの人はスルーすると思うが、この人はこんな私にも声をかけてくれる優しい人みたいだ。
このご時世でもこんな人がいるのか。その事実に、少し救われそう。

あ、でも泣き顔見られたくないな……
私は下を向きながら優しき男性に言う。
「だ、大丈夫です」
すいません……と私が謝ろうとした時、男性が言った。
「全然大丈夫じゃないじゃん。血出てっぞ、ここ」
男性の手は、私の膝小僧を指差していた。
「ほ、ほんとだ……」
男性の言う通り、私の膝小僧からは血が流れていた。だからこんなに痛かったんだ。
これ、かさぶたになるかも。なんて考えてると、男性が言った。
「結構痛そうだな。うちすぐそこなんだけど来る?手当てするよ」
「えっ?」
そう言いながら男性は私の後ろに回り込み、私を立ち上がらせてくれる。
「よいしょっと」
「え。ちょ、ちょっと…」
私は男性に触られたことなど18年間のうち一度もなく、服越しとは言え頭がパニック状態になる。
……それに男性の手はまだ私のお腹あたりにあり、2人は密着したままだ。
あ、香水のいい匂い……レモンかな?なんかシトラス系……

「ど?うちここから5分くらいなんだけど、歩けそ?」
え、あれ、これってもしかしてすごいやばい状況なんじゃ…
今知り合ったばかりの人の家に上がり込むのって、さすがにやばい気がする。
しかも、それが男の人だなんて…
この人助けたふりして私を家に連れ込むつもり?
いや、それはちょっと自惚れすぎなのかな。
この人は単に良い人なだけって可能性も……良い人を疑うのも気がひける。
で、でも!やっぱり!
私は断ろうと後ろを振り向く。

「あ……」
私はこの時初めて助けてくれた男性の顔を見た。
髪は、短めの金髪。
眉毛は薄く、右耳にはピアスが3つ左耳には1つ。
首に唇モチーフのネックレスを1つつけており、手には同じデザインの指輪をつけていた。
外見は結構チャラチャラしている。でも目はすごく優しい目。
それに、白シャツに黒ズボンと服装はキッチリしているから不良というわけではなさそう。

それと…
「1人で歩けそうにないなら、おんぶしてこっか?」…この人は、声がすごく優しい。なんだか安心する声だ。寝る前、子守唄を歌ってほしいような……そんな声。

「え、えっと…おんぶは恥ずかしいので……」
「はは、だよな。じゃあ肩貸すから、行こ」
男性はそう言い私の肩を自分の肩に乗せ、勝手に歩き出す。
あああ…結局流されてしまった……