私は、鏡の前でにらめっこをしていた。
右手には初夏らしい、真っ白のシャツワンピース
左手には大人っぽい、紺の丈が長めのワンピース……

「ん〜〜どっちにしよう」
もはや、どっちも似合ってない気すらする。
髪型はもう巻いてスプレーで固めてあるし、メイクもバッチリだ。あとは洋服を選ぶだけなんだけどな…

「やば!」
壁に掛けた時計を見るともう電車の時間が迫っていた。
もうこっちでいいや、と紺のワンピースに袖を通して私は駅に急いだ。


♢♢♢


誠司くんとは2週間くらい、連絡を取っていなかった。
でも私は毎晩のように思い出していた。雅之の泣きそうなあの顔を。

「お前が、あいつを元気にしてやってくんね?」

誠司くんと出会ったばかりの私に何が出来るというのだろう。
雅之とは時々ご飯に行ったりゲームセンターに行ったり、仕事以外でも会ってはいたが、あれから誠司くんの話題は出なかった。

私は最近になり、メニュー開発の意見なども言わせてもらえる立場になった。

何故新人の私がそんな立場までなれたかと言うと、高校時代から更新している食レポブログがついに職場のみんなにバレたからだ。
「優菜ちゃん、舌肥えてるだろうし」なんて言われ、営業終了後に小百合さんの作るスイーツを味見するようになった。

”カフェなう”なんて呟いて、お洒落なお店の可愛くトッピングされたケーキをSNSに若者が載せまくるこの時代。
特に女性客が多いこの店は、見た目がどれだけ可愛いかも重要になってくる。

カフェ業界って思ったより、難しい。

他の店にはなく、インパクトがあり、可愛くて美味しくて、季節感があるもの……

頭を悩ませていたが、なかなか良い答えに辿り着けない。