「どうしたの!」
家に着くと、千華ちゃんは驚いてあたしを見た。
ドキッと心臓が音を立てたけど、千華ちゃんの心配はどうやらあたしの尋常じゃない汗の量を見たかららしい。
全力でチャリを漕いだとごまかして、慌てて2階に駆け上がる。
今は誰とも話したくない。
部屋に着いた途端、貼り付けた笑顔をかき消すように顔を手で覆った。
もう何も考えたくなかった。
制服を脱ぎ捨てざっとシャワーを浴びる。
おじさん達に会わないように、また自室に勢いよく戻って、横眼に入った制服をハンガーにかけた。
カーテンが開いていて、それを閉めたのにあたしは何かに怯えていた。
何かが怖かった。それが何かを分かり切ることも嫌だった。
髪も乾かさないでベッドに潜り込む。
目を瞑る。
じわっと、雫が目の筋を滑り落ちた。
これは恐怖なんかじゃない。
今、あたしは自分のベッドの中にいる。
沙凪、もう安心して。
おやすみ。また明日ね。
そう言って頭を撫でてくれたなら。