自転車をこいで、赤信号を待つ。
あたしは後ろを振り向けなかった。
いないとわかっていても。
ペダルを漕いで、冷や汗とは違う汗をかいて。
リセットした気分で帰り道を風と流れた。
青にならない信号を待ってる間、あたしの頭は空っぽで。
ただひたすらに帰り道にタイヤを滑らせる。
ぎゅっと握りしめたブレーキがあたしを抑えてくれるみたいだった。
これがきっと、歯止めをかけてくれてるんだ。
そう思えた。
暗い街を月だけが見てる。
あたしはその中を颯爽と駆け抜ける。
上から見たらどんな風に見えてるかは分からないけど、今は暗闇に紛れていたかった。
誰にも見えないように。
気づかれないように。
お願い、あたしを隠して。


