ニコニコと胡散臭い笑顔を振りまく彼は、背が高く整った顔立ちだ。
「…。」
「あのですね~、」
誰だろう…。
何も答えられないあたしに彼は口を開いた。随分おしゃべりな人だと思った。
「どちら様ですか?」
やっとの思いで出た言葉に、彼は目を丸くしてから三日月型にすぐ細めた。
それは月の満ち欠けとはまるで違う、でも似たような神秘さを感じさせた。
いや、妖艶さを与える目にも見えた。
「これは失礼。ジンと申します。」
は??
あまりにも拍子抜けした彼の回答に口がぽかんと空いてしまいそうだった。
ジン?
「少々お時間頂けませんか?大事なお話がございまして。」
何だろう、この人。
得体の知れない何かが怖かった。
気持ち悪い、その笑顔。
名刺を差し出してきたけど、見もしないで無視した。
足が震えそうだ。
怖い。
ああ、でもおじさんに教わってきた。
冷静に。どんな時でも。
「失礼します…。」
我ながら上出来。
そう思って彼の横を通り過ぎた。


