はじめて見かけた、というか会ったのは入学式のつぎの日。




その日の放課後は、新入生の俺にも異常だとわかるくらいにお祭り状態だった。

廊下にせよ、中庭にせよ、声を掛けられるのは全て部活。
この勧誘はうちの学校では伝統らしいけれど、文化祭か何かですか?と、疑問符しか浮かばない。

「いいじゃん、歩いてればお菓子貰えるんだから。」

「まぁ、そうだけど。」

内部生のやつらが下校前に昇降口でビニール袋を用意してたのはこれだったのか……。
どんどん手渡されるお菓子には、〇〇部 何時~練習します!
とか、簡潔な案内が書かれていた。

女子陸上って、俺男だし……。

「奏は何か部活入んの?」


入るつもりは無い、その時の俺は心に決めていた。
高校に入ったら勉強に専念するんだと。

一緒に歩いてた晴人に答えようとしたその時、足下にひらりと1枚の券が落ちてきた。

拾い上げると整理券の文字。

「なんだそれ。部活とか、何も書いてないじゃん。」

「あ、」


顔を上げると
制服姿で整理券を配りながら宣伝をする、1人の女の子が見えた。
いや、部活の勧誘してるんだから絶対に先輩だろうけど。



「すみません、整理券落としましたよ。」
 
「えっ、あっ、ありがとうございます。」


思わず息をのんだ。

別に、その先輩が校内一の美少女だったとか、そういう訳ではない。と思う。
けれど、先輩が振り向いた瞬間、俺は何がかはわからないけど
『この人だ。』
と、思ったんだ。


部活なんて入るつもりはない。

でも、見学なら行ってもいいかもしれない。
茶道なら体裁上はお茶を飲みに行くことにできるし。


次に晴人に声を掛けられた時には、俺の手には大事に握り締められた茶会の整理券があった。