6月下旬に入り、演奏の方もだいぶ上手になった翼と陵先輩。
だけど正直、あと3〜4人は欲しい。
そんなことを考えながら、寮の敷地を散歩してたら何処からか音が聞こえる…。
♪〜♪〜♩〜
音色が気になり、音が聞こえるところへ足を運ぶ。
音色の正体はフルートの音色…。

すごく優しい癒される吹き方で、私は目を閉じて吹き終えるまで聴いた。
「あのー。えっ…。」
勧誘しようと声をかけようとしたが、その人は苦しそうな表情をしてて話しかけられなかった。
私はその日の夜は眠れずに朝を迎えた。
「あわぁ〜(。-_-。)zz」
『でっけぇあくびだなぁ〜。ぷっ(゚∀゚)不細工…』
「あっ…天先輩、おはようございます…(。-_-。)」
天『お前…何があったのか?』
「何でもないです」
天(嘘つけ!!ちょっと構っただけで突っかかってくるくせに)
天『ふーん』

「天先輩、ちょと聞いていいですか?」

天『何?』

「天先輩はピアノ弾くと辛いですか?」

天『はぁ?』

「演奏してる時、すっごい楽しそうな感じなのに演奏終わると凄く辛そうな表情になるんです。」

天『それはお前だってそうだろ?』

「えっ?」

天『お前だって演奏中泣いたりしてるだろ。お前と同じように、音楽が好きって気持ちがあっても過去に辛い思い出があったら辛い表情になるだろ。』

辛い思い出…
そっか…
私が秀ちゃんのことを思い出すように、あの女の人も…
あの女の人はどんな辛い過去があるんだろう。

天『それで眠れずにいたってことか…。』

鈴)コクンッ

天『らしくねぇな!いつものお前は、誰に対しても真っ直ぐぶつかってくるやつだろ。だったら、とことんそいつにぶつかれよ!お前がそいつの音楽をまた見つけてやればいいじゃねぇか。今のお前はつまらん!』

「天先輩…。ありがとうございます!!」

天先輩の言う通りだ!!
ちゃんとその人と向き合おう!!

「早速、声かけてこよ。」

天『お前、そいつどのクラスかわかるのか?寮の池でみかけたんだろ?』

「あ…名前も知らない…」

天『馬鹿だな…。』

あームカつく!!
天先輩は意地悪な言葉を投げかけながら“生徒の事なら奏多先輩に聞くといい”と教えてくれた。
奏多先輩に聞いたら悩むことなく、クラス・名前をすらっと答えてくれて、私はダッシュでその人のクラスへ走った。
奏多先輩って何者!?

フルートを演奏してた人は、

山田 陽菜(やまだ はるな)先輩。
中学生まで吹奏楽部で、結構活発な人らしい。
高校でも活動しようと声をかけたが誰も集まらなかったらしい。

「すみません。山田陽菜さんっていますか?」

『はぁ?あんた誰?』

私は山田先輩のクラスの人に訪ねた。

「私は1年の七瀬 鈴です。山田先輩に用があるので、呼んでください。」

『残念だけどいないよ。』

その人達は笑いながら答えた。

「何処に行ったか、教えてください。」

『知らねェよ!!つか、しつけーよ!!』

クラスの人が私を押そうとした瞬間、後ろから声がした。

『ねぇ、邪魔なんだけど…。』
「すみません…。えっ?」
『陽菜!!』
山田先輩だった。

陽菜『何?その子!』
『何か〜陽菜に用があるってよ!陽菜、知り合い?』
陽菜『知り合いではないけど、知ってるわ!新城君たちといつも一緒にいるの見かけたわ!何の用?』

「あの!私と一緒に演奏してみませんか?」

陽菜『イヤよ!』

私はあっさり断られてしまった。
どうにかしようと何回か粘ったけど、扉を閉められた。

私は毎日、陽菜先輩を勧誘しようと会いに行っていた。

陽菜『いい加減にしてよ!!私はやらないって言ってるでしょ!!』

「やるって言うまで会いに行きますよ!」

陽菜『何で私なのよ!!私は楽器には興味ないの!!』

「私は、陽菜先輩が吹くフルートが好きなんです。それに勿体無い!!」

陽菜友『えっ…』

陽菜『っ!!』

陽菜友『陽菜はフルートなんて吹くわけないじゃん!!ねぇ』

陽菜『そうよ!私はもうフルートなんて吹いてないわ!もう、付きまとわないで!!』

何で?
何でフルート吹いてないなんていうの!?すごい素敵だったのに…。

私は廊下をとぼとぼ歩いて、階段を下りようとしたとき踏みはずして落ちるのを覚悟したが、誰が受け止めてくれた。
もしかして天先輩?と思ったが、奏多先輩だった。

奏多『大丈夫ですか?』

「大丈夫…。」

何で天先輩だと思ったのか、自分が恥ずかしくなった。

奏多『気をつけてください。それより良くやりますね…。』

「そりゃ!!私は山田先輩と一緒に演奏してみたいんです。」

奏多『それはいいですが、相手の気持ちも考えて行動することも大切ですよ。』

「それは!」

私の言葉を聞き終える前に、奏多先輩は行ってしまった。

放課後、山田先輩の勧誘に行こうと教室からでたら、山田先輩のお友達が2人が私に声をかけた。

陽菜友『ねぇ、ちょっと!!もう陽菜にまとわりつくのやめてくんない?』

陽菜友『マジ、迷惑!』

「私は、どうしても山田先輩とやりたいんです。」

陽菜友『これ以上、陽菜を苦しめないで!!フルートの話もしないで!!』

陽菜友『もし、陽菜に近づいたら許さないから』

「山田先輩に何かフルートのことであったんですか?」

私が聞くと2人はピクリと肩を揺らし、黙り込む

陽菜友『あなたには関係ない』

陽菜友『陽菜にとってフルートは苦しめる存在しかないのよ!』

『何してるの?』

横から陽菜がやってきた。

陽菜友『『陽菜!』』

陽菜『何してるの?』

陽菜友『陽菜にまた会おうとしたから追い返してたの』

「山田先輩、本当は音楽が大好きなんじゃないですか?」

陽菜友『いい加減にして!!』

ドンッ!!

私は押されて壁に背中がぶつかった。

陽菜『華!やり過ぎよ!』

山田先輩のお友達の1人は華というのか…。

華『でも!!こいつが!!』

陽菜『私は平気よ!七瀬 鈴、私をいくら誘っても無駄よ。入る気は無いから』

陽菜は華を隠すように前に出て言った。

「山田先輩、音楽は好きですか?」

陽菜『嫌いよ!それとあなたも!』

私はとどめを刺された。
涙が勝手に落ちてきた。

『あ、ここにいらっしゃいましたか。翼、いました…って七瀬さんどうかされました?』

声をかけてきたのは奏多先輩だった。

「いや…なんでも…!」

急いで涙を拭き取り、笑顔を見せようとしたが奏多先輩は山田先輩たちに気づいた。

奏多『あなた方…影でこそこそするのはどうかと思いますよ。』

「奏多先輩、山田先輩たちは関係ないです…」

『関係あるだろ!』

私が山田先輩には関係ないことを言うと、翼が私の頭にポンと軽く叩いた。

華『陽菜に付きまとってたから、やめてって言っただけ。』

陽菜友『陽菜はすごく迷惑してたんだから。』
陽菜の友達が奏多先輩と翼に訴える

翼『じゃあ、何でこいつ泣いてんだ?』

陽菜友『そんなのこの子が勝手に泣いてるだけじゃない。』

華『陽菜が泣かすわけないじゃん』

奏多『わかりました。今回はそうしましょう。ですが、2度目はありませんから。』

奏多先輩は面倒くさくなったのか、話を終わりにするため陽菜たちに言った。

陽菜『っ!!』

山田先輩…震えてる?!

「翼、奏多先輩!違うんです。本当にー」

私が翼たちに誤解を解こうと話してるとき、陽菜先輩はいっぱいの涙が溢れていて隠すように走って行ってしまった。
華・陽菜友『陽菜っ!?待って!!』

「山田先輩!!」

私は山田先輩を追いかけようとしたが、華さんたちに睨み付けられて足が止まった。

翼『鈴、大丈夫か!?』

「翼、違うの!!山田先輩は悪くないの!!本当に私がしつこく勧誘したからなの!」

翼『でも、お前泣いてたじゃん』

「あれは目にゴミが入ったからで、先輩には関係ない。」

私は翼たちに誤解を話して、山田先輩を追いかけた。
華『いた!?』

陽菜友『いない。どこいったんだろ…。』

華『全部、あいつのせいだ!!やっと少しずつ笑顔を見せてくれるようになったのに…。』

「華先輩!!」

華『七瀬 鈴…いい加減にしてよ!!もう、陽菜に関わらないでよ!!』

「……。」

陽菜友『お願いだから、これ以上陽菜の笑顔を奪わないで…。』

「わかりました。これ以上、山田先輩に勧誘はしません。」

2人はその話を聞いてホッとした表情をした。

「でも、1つだけ聞かせてください。何で山田先輩は音楽が嫌いになったのか。」

華『それは…』

「私は山田先輩が本当に音楽を嫌いになったようには思えないんです。何かあったからですよね?聞かせて貰えませんか。お願いします!!」

華『……。わかったわ…。』

「ありがとうございます。」

陽菜友『華、いいの!?』

華『やむ終えないでしょ。』

華先輩は山田先輩の事を教えてくれた。
山田先輩は高校入学の時、私と同じで音楽を始めようとして色々な人を勧誘していた。
なかなか集まらないから、体育館と校門前でフルートで勧誘を始めたらしい。

でも、高校1年2月に校門前でフルートを演奏していて、華と陽菜友も山田先輩のフルートに魅かれて聞いていたとき、突然2年生がやってきて山田先輩にフルートをするなと忠告された。

山田先輩は、ほとぼりが冷めるまでやめて新入生が入学したのをきっかけに勧誘を再開した。
だけど、4月の終わり忠告された人に見つかった。山田先輩は小さな嫌がらせも耐えて勧誘を諦めずに戦っていた。
ただ、音楽をやりたいだけなのに…。

ある日、山田先輩は呼び出されて裏庭に連れて行かれてた。教室から出るときは真っ直ぐした目つきだったのに、帰ってきた山田先輩は怯えていた…。
手元のフルートケースがボロボロになって、今にも死にそうな表情を浮かべていた。

華『その日から陽菜はフルートをやらなくなったの…。私たちも陽菜にもう辛い事をおもいださせないように触れないの。』

「私も…探します。山田先輩を…」

華『もう、陽菜に近づかないって言ったじゃん。』

「一言だけ本人に伝えたいことがあるんです。」

華『ちょっとっ!』

私は山田先輩を探した。

「はぁっはぁ…。いた…。」

山田先輩は屋上のベンチに座って泣いていた。

陽菜『あんたのせいで私はめちゃくちゃよ!フルートはもう吹きたくないの!!もうー。』

私は山田先輩を抱きしめた。

「すみません。ずっとずっと苦しんでたのに気づいてあげられなくて…。」

陽菜『っ!私は別にー。』

「もう、自分に嘘付かないでください。先輩はフルートを吹きたくないんじゃない。大好きなフルートだから、また傷つけられるのを見たくないだけです。」

陽菜『違う違う!!私は普通に楽しくフルートが吹きたいだけ…なのに何で…うううっ』

山田先輩は泣きじゃくった。

「先輩、私にチャンスを与えて貰えませんか?」
陽菜『えっ?あなたに何ができるっていうの?』
華・陽菜友『陽菜!!』

華たちは私を止めようとした。

華『話が違うわよ!!』

「私が取り戻します…。」

華『は?』

「私が絶対に山田先輩の笑顔を取り戻します」

華・陽菜・陽菜友『っ!!』

私は精一杯の思いを伝えた。

「私が辛い過去も受け止めます!!」

陽菜『わかったわ。』

華『陽菜?』

陽菜『華、ありがとう!でも、この子の真っ直ぐした目にはかなわないわ。』

華『陽菜…。』

陽菜友『わかった。七瀬 鈴!!もし陽菜を辛い思いをさせたら、タダじゃおかないからね!』
「任せてください。後悔はさせません。」

山田先輩は私にチャンスをくれた。
それだけで嬉しくてたまらない。

陽菜『それより七瀬は何故、私がフルートやってるって気づいたの?』
次回更新予定
2月28日