「なるほどねー。まぁ、新しい本だったら読み始めてるよ」

「まじ?どんな本?」


私の前の席に座る雅樹は、イスを傾けて身を乗り出した。


「コレ。
ある男の人がね、毎晩部屋の窓から星を眺めて、好きな女の人を思い浮べるの」

「へぇー、恋愛小説?」

「で、だんだんとそれがエスカレートしちゃって……いろいろあるのよ。
基本的には恋愛を織り交ぜたサスペンスね」

「……もう少し素直なやつ読もうよ、千夏」


げっそりとした表情でそう言う雅樹を、私は思い切り笑った。


こんな風に、友達として接するのも、正直なところ……疲れる。

体が、じゃなくて、心が。


初めに変に壁を作って、強がったままで関係を築いたから、今さらそのカタチを崩すなんてできない。

好きだと気付いた時には、もう遅かったの。


いつまでも素直になれなくて、こんな風にふざけ合うことしかできない。


でもこの時間が、私にとっての唯一の支えだった。


もっと一緒にいたい……

傍にいたい……―――――


そう思う自分が、何だか歯痒くて嫌だった。