すっと上げられた雅樹の右手が、私の頭の上に乗った。
実際はただ、空を切るだけ。
「昨日とは違って、俺たちは今、気持ちもちゃんと傍にいるから……。
きっと今度は体も傍にいさせてくれるはずだよ」
ぽんぽんと頭の上を上下する掌から、優しさがたくさん伝わってくる。
例え体がなくっても、こんな風に人の心を感じることはできるんだ……――――
「でも、まだ2時だよ? 日が沈むまでここにいるなんて、雅樹は大丈夫なの?
夜になったら山を降りるのも危ないし……」
「大丈夫!ケータイ使えば明かりだって付けられるし。
これは千夏のためだけじゃなくて、俺のためでもあるんだから」
「ごめんね……。ありがとう、雅樹」
わかってるの。
さっきから雅樹が寒さを我慢してることも、手が石や葉っぱで切れてることも、……。
それでも、こんな風に笑いかけてくれることが、やっぱりものすごく嬉しい。
私達は、今までにないくらいたくさんの話をして、たまには走り回ったりもして、日が暮れるのを待った。


